幻のような靴屋「シンデレラ」
再び鶯谷方面へと戻ってきた我々。突如道端に、大量の靴が売られているのを発見。
しかもどの靴も投げ売りのような価格だ
今になって買わなかったことを後悔している、かっこいい靴
ん? 「※この靴さしあげます。(少々劣化)」!?
パリ:な、なんなんだこの幻のような靴屋は!
清野:パリッコさん見てください。俺、靴屋でタダの靴って初めて見ましたよ。
パリ:わはは、靴がタダ!(笑)
すると清野氏、おもむろにタダの靴を2足持って店内へ。
「ご主人、この靴くださ~い!」
パリ:清野さん、どうしたんすか!? いくらタダだからって、もらっても使い道なくないですか? 確かに壇蜜さんなら華麗に履きこなせるかもしれないけど……。
清野:パリッコさん、さっき「女性&女装の方」はお得な価格で入れるカラオケスナックがあったでしょう?
パリ:……まさか、これを僕と清野さんが履いて、女装と言いはる?
清野:そのまさかです。この靴こそがまさに、我々にとっての「シンデレラのガラスの靴」ですよ! ちなみに、タダはさすがに忍びないので、1足1000円ずつ払ってきました。
パリ:この靴を1足1000円で……!? 清野さん、もはや行くしかありませんね!
そうと決まれば話は早い
向かったのは「カラオケ専門店 カサブランカ」
「さっそく女装に着替えましょう!」
無理やり足をねじこんで……
「よし、なんとかなりそうだ!」
「ふたりがキツい靴を、引かずにノリノリで履いてくれたのが嬉しかったです」とは、井野氏による後日談。
とはいえここがどんな店かわからない。地下へと続く階段を降り、扉を開け、マスターらしき男性におそるおそる告げる。
「あの、女装してきたんですけど……」
緊張の瞬間だ。すると結果は……
「オッケー」
軽っ!
というわけで深夜零時までのシンデレラとなった(店の夜の部が24時までなので)我々がたどりついた最後の地がここ「カサブランカ」。
なんとも居心地のいい店だ
店には、先ほどのマスターと、若い女性店員さん。
先客は常連らしきサラリーマンのみ
アイドルソングを中心に熱唱していた
なんと人生の楽しみかたを知っている男性か。
これで2500円(女性および女装の場合)って、ものすごくお得!
いやぁ、今日もいい夜が過ごせている
勝手に出てくるおつまみもちょうどいい
常連さんが帰り、静かになった店内でしっとりとマスターが歌う
編集井野氏ももちろん歌う
パリ:この店、めちゃくちゃ居心地いいですね~。マスターが気まぐれにカラオケ歌いはじめたり。お店のお姉さんのタメ口の感じも嫌味がなくて好感しかない。
井野:確かに(笑)。
清野:もはや3人とも、お姉さんのこと「好き」になりはじめてません?
パリ:否めないですね。そんでよく見ると、飲み放題だわ、料理安いわ、しかもなんでも持ち込み放題。めちゃくちゃお得なシステムだ。
清野:ここまで良くしてもらえると、むしろ靴だけで挑んだのが申し訳なくなってきました。次回、本格的な女装で、あらためて臨みたいところですね。
パリ:わはは、男性料金払うんじゃなくて(笑)。ぜひ、そうしましょう!
「カサブランカ最高~!」
以上が、鶯谷の街で我々が経験した、シンデレラストーリーのすべてだ。
帰り道、清野氏は「靴屋の『さしあげます』の文字を見た時にシンデレラの『女性&女装の方は割引き』の看板を思い出し、そのふたつがカチッとハマった瞬間の快感がたまらなかった」と語ってくれた。それを聞いて僕は、体質的に異常な人や物事を引き寄せるだけでなく、的確な要素を頭の中で組みあげる“街歩力(まちあるきりょく)”まで持ち合わせている清野さんにこそ、畏怖の念を感じるのだった。
「入店直前にカサブランカの店先でコソコソ着替えるような『守りの女装』ではなく、ちゃんと自宅で着替えて、女装姿のまま京浜東北線に乗ってカサブランカに入店する「攻めの女装」で臨みたい所存です」(清野)
<TEXT/パリッコ イラスト/清野とおる>
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):
@paricco