ライフ

『論語と算盤』の渋沢栄一が「論語で商売をする」と決心したワケ

信念は他人から生まれる

 渋沢は玉乃の影響を受けて、「論語を教訓にして一生商売をする」という信念を持ちました。このように信念は人間関係から生まれます。大切なのは、この信念論を自覚できることです。  渋沢と玉乃の関係は「仲間同士」です。二人は同じ役人として親睦を深め、同じペースで昇進し、「将来はともに国務大臣になろう」という希望を共有していました。しかし、同じ夢を共有した仲間関係は、時間が経つにつれて志にズレが生まれ、衝突することがよくあります。人気バンドが「音楽性の違い」を理由にして解散するのと同じです。  こうした衝突があった時、人は「自分は自分の道を行く」と考えます。渋沢の場合、その道が「論語を教訓にした商売」だったのです。自分の信念に従って役人を辞めた渋沢は、日本最初の銀行である第一国立銀行(現みずほ銀行)で総監役を務め、500社以上の創業に携わります。その功績が評価されて、「近代日本経済の父」と称されるようになりました。  玉乃と衝突した時点の渋沢は、論語を学んではいたものの、そこまで深く研究していたわけではありません。そのことを『論語と算盤』で、「それからというものは、勢い論語を読まなければならないことになり、中村敬宇先生や、信夫恕軒先生に講義を聴いた」と記しています。「俺は論語で商売をやっていくんだ」と友人に啖呵を切りつつ、「もっと論語を勉強しなければ」と急き立てられるくだりはなかなかにユーモラスです。

夢は一人では見られない

 このエピソードはユーモラスであると同時に、大きなヒントが含まれています。そのヒントとは、「夢は自分一人で見るだけでなく、人間関係を絡めて信念にする必要がある」ということです。  夢は一人で見ているだけだと、儚いものになりがちです。しかし、その夢を誰かと共有したり、誰かに否定されたりすると、それが信念になり、強い原動力になります。何かを夢見て頑張ろうと思っても行動が伴わない場合、こうした人間関係に根ざした信念の欠如が疑われます。ぜひ意識してみてください。 佐々木
コーチャー。自己啓発とビジネスを結びつける階層性コーチングを提唱。カイロプラクティック治療院のオーナー、中古車販売店の専務、障害者スポーツ「ボッチャ」の事務局長、心臓外科の部長など、さまざまな業種にクライアントを持つ。現在はコーチング業の傍ら、オンラインサロンを運営中。ブログ「星を辿る」。著書『人生を変えるマインドレコーディング』(扶桑社)が発売中

人生を変えるマインドレコーディング

人はなぜ続けることができないのか? 続けるには「信念」が必要だ!

1
2
【関連キーワードから記事を探す】