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「救済法案」成立に見る、岸田総理の覚悟<著述家・菅野完>

引き続き被害者救済に向けて尽力を

 普段であれば月刊日本誌の連載はこうした動きに対して「全体主義的である」と警鐘を鳴らすのを専らとしている。確かに、「なんとかして法案を成立させるのだ」という政治目標はアリバイづくりのように見えなくもない。「これは政治だ」と腹を括った岸田総理に、立憲・社民・維新の三党が協力してしまった姿は、翼賛的であるとの誹りを免れないだろう。  しかしそれでもやはり、宿痾のようにこの国を蝕んできた統一教会の人権侵害を、社会的な問題であると再認識し、その人権侵害の手段であると同時に目的である寄付行為に、法規制の網をかけた意義は極めて大きいと評価すべきものだろう。しかも言わずもがなながら、今の政権与党は内部に公明党=創価学会を抱えているのである。そんな中で、宗教団体等が行う寄付行為に規制の網をかける法律が成立したのだ。これを近年稀に見る国会の偉業と言わずしてなんと言おう。  かくて新法は生まれたものの、統一教会による財産収奪の被害は現在進行形で続いている。統一教会には質・量ともに及ばずとも同じような被害を生んでいる団体は他にも無数に存在する。今こうしてる時にも、日本のどこかで、あるいは正体隠し勧誘の被害や、あるいは恋愛に擬態した寄附勧誘や、あるいは先祖の怨念などを口実にした寄附の強要などがおこなわれている。  新法が生まれた今、そうした個別の事案一つ一つを丁寧に拾い上げ、新法の実効性を検証するという地道な作業が必要だ。新法でどんなケースをどう具体的に救えるのか注意深く観察していく必要がある。  それと同時に、新法では救い得ぬ人々をどのような手立てで救済し保護していくのかも、それぞれのケースに基づいて丁寧に対応していかなければいけない。行政にできることはなんなのか、政治に要請されることはなんなのか、新たな立法措置は必要なのか、必要であればその内容はどうあるべきなのかなど、実務的な細かい議論を積み上げていく必要があるのだ。  その時こそ「政治」の出番が再びやってくる。実務的で細かい議論を積み上げることのできる静謐な環境を作ることもまた、一気呵成に法案を可決するのと同じく「政治家の覚悟」のみがなしうる仕事だ。今回の法案審議で立場や賛否の違いはありながらも「数十年にわたる政治の不作為の責任を引き受ける」の一念で活発な議論を重ねた国会議員各位には、引き続き、被害者救済に向けて尽力されることを期待してやまない。 初出:月刊日本2023年1月号
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月刊日本2023年1月号

特集①岸田総理の憂鬱 この内閣はいつまで持つのか
没後50年 今こそ、石橋湛山に学べ!
飢餓・農薬 日本人の命が危ない!

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