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「腐敗した体にウジ虫が…」夏場に孤独死した78歳の父。1か月放置された“アルコール依存と認知症”の最期

精神病院入院か在宅介護の2択

 生活保護の申請をしてから、父のケースワーカーと相談したが、アルコール依存がある認知症の高齢者が介護を受けるには、断酒する必要がある。精神病院に入院し断酒するか、在宅でアルコール依存があってもケアしてくれるヘルパー事業所やデイサービスを見つけるかの2択となる。  当時、同じような問題に直面したことがあった友人で、「「4歳のときビール瓶で頭を殴られた」父のアルコール依存症と戦い続けた男性が選んだ道」(日刊SPA!)で取材もしたことがあるリネットジャパングループの常務執行役員・藤田英明氏に相談をした。  すると「精神病院に入院したら、アルコール漬けが薬漬けになるだけで、寝たきりになる可能性が高い。在宅介護だと、飲酒はやめない」と言われた。父が若ければアルコール依存症の治療を考えただろう。だが、父は当時、77歳だった。好きなように余生を過ごさせたいというのが、筆者が出した結論だった

介護は残される遺族のためのセレモニー

 父のアルコール問題で嫌な思いをしていた筆者は、弱った父を虐待しない自信がなかった。  同じく「「家族が壊れる…」認知症の親の介護、当人の“病識の低下”が悲劇の原因だった」(日刊SPA!)で話を聞いたこともあるので、認知症ケアの専門家で『認知症の人の「かたくなな気持ち」が驚くほどすーっと穏やかになる接し方』(すばる舎)の共著者で株式会社くらしあすの坂本孝輔氏に相談した。  彼からは「介護は残される遺族が自己満足して、死を受け入れるためのセレモニーだよ。田口さんがちょっといいことをしたと思う程度のことをお父さんにしてあげたらいい」と言われた。その言葉が救いになった。「ちょっといいことをした」と思える距離感ならば、優しくできそうだ。  そうして、筆者の介護生活は始まった。意外にも穏やかな1年だった。父は酒をやめなかったし、介護事業所が入ることは頑なに拒んだが、「精神病院で廃人になるか」と言ったこともあり、酒量は大幅に減っていた。
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ふらりと現れた父がくれた5万5000円
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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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