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iPS移植大ウソ事件でわかった日本の研究費助成の穴

 山中伸弥京都大学教授のノーベル医学・生理学賞受賞を吹き飛ばした「自称・ハーバード大学客員講師」森口尚史氏の一連の騒動。本人が語った「iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術」はすべて眉唾だったため、結局、森口氏は所属する東大医学部附属病院からも懲戒解雇されるハメとなった。が、この騒動はまだまだ収まりそうにない。

 ’10~’13年度までに、森口氏の関わる研究に1億6400万円が内閣府から助成され、そのうち967万円が森口氏の人件費に充てられていたことが発覚。大ウソつきの給料に血税が使われていると、追及の声が上がっているのだ。しかも、東大付属病院が内閣府に提出した報告書のうち、森口氏の論文の内容をチェックしていなかったことも判明。山中教授も繰り返し言っていたように、先端医療の研究にはどうしてもお金がかかる。だが、アカデミズムの最前線でこんな杜撰なチェック体制が敷かれているとは……なんともお粗末極まりない話だが、実際にはよくあることなのか。

富坂美織氏

富坂美織氏の著書『自信加乗 ハーバードの論理力』

 話題となった「ハーバード大学」の大学院を卒業し、日米の医療現場に詳しい医師の富坂美織氏はこう説明する。

「アメリカでは、国立衛生研究所などから研究費が助成されますが、助成の期間が5年程度と長めなので、国から下りる研究費も莫大な額になります。ただ、申請への審査が大変厳しく、これをクリアして助成を受けている研究でも、5年後に申請したときにパスするとは限らない。だからアメリカでは、助成が途絶えてラボ(研究施設)がなくなってしまい、研究する場所がなくなった……という研究者も珍しくないのが実状です(苦笑)。一方、日本では研究費の助成期間が2年と短い場合が多く、一度審査をクリアすると次に申請するときもOKとすんなり通ってしまう……。いわば“自動更新”のようなものなので、チェックが甘くなるのでしょう。今回の騒動が起きなければ、東大がノーチェックだったことに内閣府が気づかなかった可能性も否定できません」

 ノーベル賞を受賞した山中教授も「今、iPS細胞研究所は(企業でいう)正社員が1割しかいません。9割は有期雇用の方ですので、非常に不安定。なんとか彼らに適正な雇用、正社員としての雇用を」と、スタッフの有期雇用の正規化を国に訴えている。

富坂氏が続ける。

「アメリカの場合、国からの研究費でも人を雇用するお金に充てることができます。もちろん、その際は大学などの第三者的機関が厳しくチェックしますが。研究環境という意味では日本は遅れていると言わざるをえません……」

 図らずも一連の騒動が日本の制度的欠陥を明らかにした格好だが、張本人の森口氏は、いまだハーバード大学の「客員講師」であると強弁しているという……。真偽のほどはどうなのだろう?

「ハーバードにも客員研究員はいますが、知り合いの教官がOKすればなれる程度のポジションに過ぎず、無給のはずです。報酬が発生する客員教授、客員講師という肩書きは、大学が認めなければ与えられません。ハーバード大学はすでに『森口氏とは現在、一切関係ない』との声明を出してますが、実はこうしたことはよくあります。ハーバードは超有名大学、そのブランドの力は絶大。『関係がある』と謳えば宣伝や箔づけにもなるので、関係者を騙る企業や人物が後を絶たないんです。化粧品や健康器具の会社が、さもハーバードのお墨付きを得たようなことを言って、すぐさま否定の声明を出されたりしてるくらいですから(笑)。ただ、研究者がハーバードの名を騙っても意味はないのでは。今回のように、すぐバレるのがオチでしょうし……」

 今回の騒動で、日本の先端研究に従事する人々の窮状にスポットが当たり、国が改善に乗り出せば、森口氏の行動にも少しは意味が見いだせるのかもしれない。

【富坂美織氏】
医師。コンサルタント。順天堂大学医学部卒業後、愛育病院産婦人科医を経てハーバード大学大学院に留学。マッキンゼーコンサルタントという異色の経歴を持つ。現在は医師として臨床に携わる傍ら、ポリオ撲滅のために精力的に活動。マッキンゼー式のポジティブシンキング、ハーバード仕込みのプレゼン法、女医としてのカウンセリングなど、「50の成功するヒント」を綴った新著『自信加乗 ハーバードの論理力 マッキンゼーの楽観力 ドクターの人間力』(講談社)が発売中

<取材・文/日刊SPA!取材班>

自信加乗 ハーバードの論理力

ハーバード留学経験のある女医が働く女性たちへ宛てた「50の成功するヒント」。




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