有色人種を漂白?「アナと雪の女王」が炎上を免れた理由
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
観客が主題歌に合わせて歌うなど、すっかり社会現象になった「アナと雪の女王」。日本でも動員1000万人を超え旋風を巻き起こしているが、公開当時アメリカでひと騒動あったことはあまり知られていない。
問題となったのはクリストフという登場人物の容姿。彼は北欧の少数民族サーミ人という設定なのだが、劇中での見た目はモロに金髪白人。そのため「有色人種を漂白している!」と欧米圏のブロガーなどから怒りを買ったのだ。
「こいつはまたディズニーお得意の『白人の女の子が勇気あることをした』って話だろ? 地理的に考えても、冒険するうちに色んな人種に出会うはずなのに。雪の女王やら氷の呪文は現実的で、別な人種がいるのはファンタジーだってのか?」
近年ディズニー・アニメではアフリカ系、アラブ系、アジア系、アメリカ先住民と様々な人種のヒロインが誕生しているが、ネット上には「プリンセスは金髪の白人という過去に回帰している」との声が溢れた。
「主役の姉妹は黒人やラテン系じゃダメだったのか? たしかにスカンジナビアには有色人種は少ないかもしれないけど、それを言ったら喋る雪だるまだっていないだろ?」
作品を擁護し、「時代背景からして、そのころ有色人種がヨーロッパに少なかったのは事実だろ」と冷静に反論する声もあったが、中にはキャラクターの造形が差別だという人まで。
「『塔の上のラプンツェル』が人気だったから、それに合わせてヒロインの顔を『整形』したらしいな。それは差別だろ!ドイツ系みんなが同じ顔じゃないのに」
ついには登場人物の人種を変えたコラ画像が出回るなど、批判の声は増すばかり……。ところが、この事態にブレーキをかけたのは意外なものだった。それは「アナと雪の女王」最大の特徴――音楽だ。
実は映画のオープニング曲に起用されていたのは、発端となったキャラクターと同じサーミ人のコーラスグループ。またこの曲には「ヨイク」という伝統歌が使われており、多くのサーミ人は作品に好意的だったのだ。その中にはノルウェー・サーミ協会の会長も含まれており、差別だと怒るどころか「今や世界中にヨイクを聴いてもらっている。サーミ文化は新しい観客に広がっています」と、作品を讃えたのだ。かくして騒ぎは沈静化し、アカデミー長編アニメ映画賞を受賞するなど、「アナと雪の女王」は近年のディズニー映画の中でも最高の評価を得ることとなった。話題となっているのは主題歌だが、ぜひオープニング曲にも耳を傾けてほしい。こういった民族的背景を踏まえて聴けば、さらに音の深みが増すはずだ。 <取材・文/林バウツキ泰人>
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