逃れられない中東戦線の狂気とは? 戦場カメラマン渡部陽一「アメリカン・スナイパー」を語る
日本でも中東情勢が注目されるなか、いよいよ2月21日より公開される映画「アメリカン・スナイパー」。イラク戦争を舞台に伝説的なスナイパーの半生を描いたこの作品は「硫黄島からの手紙」、「父親たちの星条旗」といった戦争映画で知られる名匠クリント・イースウッドの最新作。本年度のアカデミー賞では6部門にノミネートされ、作品賞候補作のなかでは唯一全米興行収入1億ドルを突破するなど、この春必見の一本だ。
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◆幾度も戦場に戻っていく兵士たちの心理とは
そんな「アメリカン・スナイパー」の見どころは実話だということ。特に米軍史上最多160人を射殺する一方、家族を愛する男としての一面も持つ主人公クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)の姿、そしてイラクの前線はリアルそのものだ。では、実際戦場に身を置いた人間の目に本作はどう映ったのだろう。従軍カメラマンとしてイラクで取材を重ねた渡部陽一氏は、本作から戦場に身を置く兵士たちの狂気をはっきり感じたという。
「イラクでもアフガニスタンでも、大勢の兵士が『一度戦場に足を踏み入れたものは必ず元の戦場に戻ってくる』と言っていました。世界史が音を立てて目の前で動いていく状況に身を置いたとき、人は誰でもその現場に戻りたいという衝動に駆られていきます。『ウォー・フォトグラファー・シンドローム』と呼ばれるその症状からは、どの国のカメラマンや兵士も逃れることができないと前線の兵士たちは口を揃えていました」
その症状は本作の主人公クリス・カイルにも共通している。4度もイラクに遠征し、次第に自身のコントロールを失っていくその姿は、渡部氏が戦場で目にした米軍の兵士そのものだという。
「兵士たちは前線ではアイシールドをかけ、防弾チョッキを着用したロボコップのような姿で任務を遂行していきます。しかし、キャンプ地に戻ると途端に陽気になってジョークを飛ばし続け、我先に国際電話がかけられるブースに足を運び、電話をしながら泣いているんです。張り詰めた前線とキャンプとの温度差で自分自身の気持ちのコントロールができなくなる。そういった兵士たちが抱えている感情の変化を強く感じました」
リアルなのは米軍の描写だけではない。背景に映し出されるイラクの街並や文化も、渡部氏が従軍カメラマンとして目にしたものと重なったという。
「主人公は兵士ですが、家族を持っている。アメリカでも、イラクでも、日本にいる私たちの日常でも、家族との時間というものは重なります。作品からさまざまなメッセージが伝わってくるなかで、今、自分自身はなにをできるのか。それを激しく考えさせられました」
幾度も戦場に身を投じる男、そして最前線となったイラクの光景を目にしたとき、日本に暮らす我々はいったいなにを感じるのか? 劇場に足を運び、たしかめてみてはどうだろう。 <取材・文/林バウツキ泰人>
●『アメリカン・スナイパー』
2月21日(土)新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他全国ロードショー
オフィシャルサイト: http://www.americansniper.jp
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC




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