更新日:2017年10月24日 15:06
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本当に自民圧勝?希望惨敗?立憲躍進?メディア情勢調査の疑問【中田宏・元横浜市長】

中田宏

シンクタンク「日本の構造研究所」代表の中田宏氏は「そもそも固定電話にかける情勢調査自体、お年寄りの割合が大きい。実際に投票所に行く人たちもお年寄りが多いので、ある意味正確な数字とは言えるが、やはり、サンプルに偏りがあるので情勢調査の数字がすべてとは言えない」と話す

「自民単独過半数の勢い 希望伸び悩み」(読売新聞)、「自民堅調 希望伸びず」(朝日新聞)、「自公300超うかがう 希望伸び悩み」(毎日新聞)  衆院選公示3日目に当たる10月12日、全国紙は「選挙戦序盤」の情勢調査を一斉に報じた。その後、22日の投開票日に向けて、「中盤」と「終盤」にもそれぞれ調査結果を発表。おおむね、自民党が先行し300議席をうかがう勢いで、希望の党は伸び悩み公示前の57議席を大きく下回る40議席台、急ピッチで追い上げを図る立憲民主党は、希望の党を上回り野党第一党に躍進する可能性も出てきた……といった分析がなされている。  これらメディアの出す数字は、「アナウンスメント効果」として知らぬ間に有権者の投票行動に作用することになる。「ブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典」には、以下のような解説が記述されている。 【アナウンスメント効果】 選挙の投票行動や経済活動などに関して、マスメディアの報道が人々の心理に影響を与え行動を変化させること。アナウンス効果ともいう。たとえば選挙において、有利と報道されていた候補者や政党が、実際には敗れたり苦戦したりするのは、有権者の判官びいきやバランス感覚によるとも考えられる(→バッファー・プレイヤー)。逆にある候補者が不利と報じられると、その支持者に投票へ向かう心理が強く働き、結果として不利とされた候補者が当選することもある。  果たして、明日投開票を迎える衆院選にどれほどの影響があるのか? 今回、横浜市長や衆院議員を歴任し、現在シンクタンク「日本の構造研究所」代表を務める中田宏氏に話を聞いた。 ――新聞各紙の情勢調査を見る限り、自民党が圧勝しそうな勢いです。メディアによる「アナウンスメント効果」の影響はあると思うか。 中田:今回の選挙で、もっともアナウンスメント効果の恩恵を受けているのは立憲民主党でしょうね。希望の党代表の小池百合子東京都知事が「排除の論理」と批判されましたが、有権者が、理非曲直(りひきょくちょく=道理に合っているか否か)を正さず、直感的に弱い立場の者に同情を寄せる「判官びいき」の心理が働くことで、立憲民主党に票が集まる可能性は十分あると思います。選挙で「劣勢」(負け犬)を伝えられると同情票が集まるというアンダードッグ効果という言葉でも置き換えられますが、実際、立憲民主党が終盤にかけて支持を広げているのを見ても、ある程度の効果はあったのではないでしょうか。 ――アナウンスメント効果には、有権者が無意識のうちに「勝ち馬」に乗っかろうとするバンドワゴン効果という傾向があるが、今回、情勢調査で「圧勝」と予想されている自民党に有利に働くのではないか。 中田:民主党への政権交代が実現した2009年の衆院選、そして、その反動で自民党が雪崩式に勝利した2012年の衆院選――。この2つの選挙はバンドワゴン効果が働いたと言っていい。ただ、「例外」もあるので、今回もこの2度の選挙と同じことが起きるとは言い切れないでしょうね。  中田氏の指摘するように「例外」はある。1996年、自社さ連立政権の橋本龍太郎首相が戦った衆院選は、国民的な「橋龍人気」で自民党は28議席増の239議席を獲得したが、このとき、新聞各社が選挙期間中に行った情勢調査では、「自民、過半数(251議席)に迫る勢い」とまで報じられていたからだ。もちろん、選挙は水物。蓋を開けるまでわからない所以の選挙結果だったと言えよう。 ――全国114の選挙区のうち、自民・公明、希望・維新、共産・立憲・社民の「3極」に分かれた選挙区は、反自民の受け皿となる票が分散されるため自民優位と見ていいだろう。一方、選挙終盤を迎え、接戦と報じられている28都道府県の49選挙区を自民党は重点区に指定し、最後のテコ入れを図っている。 中田:小選挙区制で大差が開いている選挙区にはアナウンスメント効果は期待できないが、候補者同士が均衡している選挙区には一定の効果があると思います。実は、そもそもアナウンスメント効果でいちばん影響を受けるのは、有権者ではなく候補者のほうなのです。数字が出れば、現時点で「勝っている」とか「負けている」という目安ができるので、当然、陣営の力の入れ方も変わってくる。世論調査の結果に敏感に反応できて、その都度対応を変えていける組織やスタッフなどの体制が整っている候補者は強い。選挙をやっている側からすれば、「ややリード」している状態で、相手候補が「猛烈に追い上げている」と分析されているくらいが、陣営も引き締まって最後まで緩みなく戦い切れるものです。 「接戦」と言われた米国の大統領選や英国のEU離脱の国民投票では、メディアの予想はすべて裏切られた。中田氏は「そもそも固定電話にかける情勢調査自体、お年寄りの割合が大きい。実際に投票所に行く人たちもお年寄りが多いので、ある意味正確な数字とは言えるが、やはり、サンプルに偏りがあるので情勢調査の数字がすべてとは言えない」と話すが、果たして、今回の衆院選でメディアの読みはどこまで当たるのか? 22日の開票結果を待ちたい。 <取材・文/山崎 元(本誌)>
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