第369回

6月29日「さようなら」

・カフェ最終日。丁寧に丁寧にコーヒーを淹れる。ここで缶詰になっていたTAGROさんが、『ファウスト』掲載用イラストを遂に完成したその瞬間、とうとう閉店時刻になった。

・楽しい2ヶ月間だった。海外から来てくれた人もいた。バイトして交通費作って地方から来てくれた学生さんもいた。ここで、しっかりチャンスを掴んでいったクリエーター志望者もいた。この時代、様々な機会は手を伸ばせば届くところに提供されるもので、なーんだ簡単じゃないかと思えるようなものになっているわけだが、しかしぼんやりしてると、それはあっという間に消える。

6月30日「梅雨」

・歩く。あじさい畑に遭遇。今年はかたつむりが多くてなごむ。

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7月1日「モビルスーツの原点」

・『スターシップ・トゥルーパーズ3』試写。第1作を監督したポール・バーホーベンが製作に回り、これまで脚本を担当していたエド・ニューマイヤーに監督させている。CGで作り上げた巨大昆虫と未来軍隊の戦闘シーンを見せつけるために作られた感のある第1・2作と違い、ハインラインによる原作『宇宙の戦士』にかなり近い設定で作られている。特に未来の軍隊や社会について原作に書き込まれたものをみっちりと物語に取り込み、映像化している。

・映像はもちろんSFX駆使の豪華なものなのに、1950年代のB級SFの雰囲気が濃厚に漂っている。派手に血肉が飛び散るし、無理矢理オッパイ出すし、メカやモンスターのデザインはどれもすごく子供っぽい。どのシーンも良い意味で安っぽく、品がない。新人監督ニューマイヤーは、ポール・バーホーベンの真骨頂はB級SFに真剣に取り組む姿勢にある、と解釈したのかもしれない。

・映像は日本のアニメからのインスパイヤも多いが、ただしパワードスーツはガンダムのモビルスーツのぱくりではない。実は原作で既に提示されているのだ。そもそもガンダムの制作スタッフがこの原作小説からインスパイヤしたものらしい。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。