第499回

9月12日「小説ロボット」

・このツイートも反響があったので、補足する。というかこの件については星新一トリビュート・アンソロジー『ひとにぎりの異形』に収録いただいた「これは小説ではない」を読んでもらいたいので、まず、その中からの引用です。

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 文章を書く作業とは、デジタルに定義すれば「次の一語をどう選択するか」ということに尽きる。自動文章作成プログラムの基本は、簡単なのだ。その原始的なものはすでに実用化されている。携帯電話でメールを打っている人ならわかると思う。最近のケータイは何か言葉を入力するとそれに続く単語を先読みして、提示してくれる。人名の後には「さん」をつけてくれたり、「あけまして」と入れたら「おめでとうございます」と勝手につないでくれる。
 あれに人工知能の機能をつけ、桁外れに高度化すればいいだけなのだ。ただし意味のあるストーリーを書かせるには、普通の技術で作るとしたらスーパーコンピュータが数万台は必要になる計算になる。
 そこで私には画期的なアイデアがあった。データを、インターネット上からも取り込むのである。選択する言葉及び展開パターンをネット上のありとあらゆる文章の中から拾い上げてくるわけである。
 ネットは巨大なる言語データベースだ。そこには人類のあらゆる言葉が無差別に入力され続けている。
 古今東西の名作文学にも、メールによるあらゆる人々の日常会話にも、「物語」あるいは「物語のタネ」がある。
 タネがあれば、それがどんな木になるものか知らなくても、ただ水をやれば育っていく。そういう概念だ。
 私はこのシステムを完成し、特許を出願した(だからこれは特許公報で公開もされている……「データベースの更新方法,テキスト通信システム及び記憶媒体」出願番号:特許出願平11-3175211)。

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 簡単に書いているが、実はこれでもまだ、小説にはならない。ある言葉の次に続けられる言葉はこのシステムの基本プログラムによって複数のものが抽出されてくる。その中でどの言葉を選ぶか。最後まで機械まかせにしてしまうと、無味乾燥な、学術論文のような文章しかできないのである。ここに人間のセンスが求められる。
 物語性のある文章を作るためには読み手を驚かせること、時に裏切ることが必要である。それが、作家の個性というものだ。
 個性とは、作家の思考ルーチンをアルゴリズム化することによってデジタルに定義される。
 技術的にはそのためにさらに2、3の飛躍が必要だったものだが、とにもかくにも作り上げた。ところがそれから特許として認められるまでに9年もの歳月がかかったのである。アルゴリズムを法律文書にして提示するのが大変で、弁理士さんが優秀で本当に助かった (今ネットに上がっているのはそのほんの一部なので全文見たいという人は特許庁にどうぞ)。

・ここから先の話は、チューリング・テストが終了してから、改めて。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。