日々めまぐるしい変化のなか、飲食店は振り回されてきた。それでも前を向き、逞しく生きていく。その姿に、ひとりの客として励まされることがある――。
酒好きな女将と、福井の地酒に酔う!
「実際に“覚悟”した時期もありました。ただ、そのなかで私たちは一生懸命にやってきたので」
こう話すのは、西荻窪の小料理屋「日本酒おばんざい 梵」の女将である石渡麗さんだ。ようやく緊急事態宣言が解除され、街には活気が戻りつつある。とはいえ、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。女将の奮闘ぶりから、逆境を生き抜くヒントも見えるのではないか。
どんな状況に置かれても常に明るく楽しむこと
高校卒業後、故郷の福井県を出て、京都・祇園のおばんざい屋などを経てから上京。自分の好きな店で働くことで、少しずつ料理の腕を磨いていったという。
「お酒が好きで、飲み続けられる仕事がしたいと思って(笑)」
そのためには、自分で店を構えるしかない。そして、西荻窪に店をオープンさせたのが約6年前。中央線沿いの街は、ふらりと立ち寄れる小さな店が多く、雰囲気が気に入ったという。売り上げがゼロのまま続くことを覚悟した
「私はひとり飲みが好きなので、おひとり様が静かに飲めるような場所をつくりたかったんです」
最初の3年間はひとりで切り盛りしていたが、40代から80代まで次第に常連客が増えていく。それに伴い従業員を雇って現在は4人。そんななかで突然、昨年からコロナ禍に突入したのである。先行きが見えない不安が募った。
「店をつくるとき、いつか何かがあるかもしれないと思っていたのですが、その何かが来たなって」
売り上げがゼロのまま続くことを覚悟した。休業や時短営業の要請、酒類提供の禁止。街の人出も少なくなっていたが、試行錯誤の連続だった。一時期はクリームソーダ喫茶や台湾ラーメン屋として営業していたそうだ。
「仕方がないことなので、決められたなかでどうするべきか考えるしかないんです。いろいろありましたが、楽しくやっていますよ」
お客様と従業員たちの“居場所”を残したい
もちろん、店を閉めるという選択肢もあったというが……。
「従業員や常連さんが困るだろうなって。みんなの居場所をなくしてはならないと思って。なんか、照れてしまいますね(笑)」
店長の伊藤千夏さんが話す。
「女将は遊び心をもってチャレンジしながらも絶対に失敗しないように計算していて、そばで見ていてもすごいと感心しました」
周囲から慕われている女将だが、じつは“RIZIN漢塾塾長”こと格闘家・石渡伸太郎選手の妻なのである。記者が同店の存在を知ったきっかけは、単純にファンとして情報を追いかけていたことにほかならないが、石渡選手と同様に熱い心を秘めている……。 福井県の地酒をそろえ、定番の肴はポテトサラダ。自家製ラー油と葱油がピリリと効いたよだれ鶏が人気。これからの季節、おでんを食べながら一杯やるのも悪くない。あらゆる現実から逃れて、ひとりで静かに飲みたい夜もある。そんな人たちの“憩いの場”が西荻窪にあるのだった。【日本酒おばんざい 梵】
住:東京都杉並区西荻南2-24-7 YT西荻窪 1F
電:03-5941-7617
営:12:00~23:00(22:00L.O)
休:不定休
料:料理一品500~1000円、定食1500円(ご飯・みそ汁セット)
※お会計は500円単位で丸める
※西荻窪駅南口 徒歩3分
※営業時間や定休日が変更になる可能性があります。最新情報は店舗にお問い合わせください
撮影/長谷英史
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マエザワ エロ本出版社出身、元ギャル男雑誌編集者。無類の外国人好き。趣味は「夜の国際交流」
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