西麻布にひっそり佇む老舗SMバーで“変態紳士”に近づく夜

 齢四十を過ぎると、「隠れ家」というものを持ちたくなる。先輩にも、同僚にも、恋人にも、家族にも、誰にも邪魔されず、誰にも遠慮せず、心静かに過ごす。そんな場所が欲しいものだ。

 カチカチに凍ったレモンに甲類焼酎を注ぎながらそんなクダを巻くと、隣で静かに聞いていた、夜遊びガイドのO氏がひとりごちた。

「実はとっておきの店があるんですが、教えたくないなぁ……」

 渋る氏に懇願すること数十分、タクシーを呼んだ氏は、小さく「西麻布」と運転手に告げた。

心のタガを外しにきなさいよ。たっぷり可愛がってあげる

 止まったのは西麻布交差点にほど近いビルの前。有名高級焼き肉店のネオンが眩しい。

 エレベーターの扉が開くと、真紅のビロードの幕。「いらっしゃい」と女性の低い声が聞こえたその先の幕を開けると、鈍く光る黒く大きなカウンターが。そこにはボンデージに身を包んだ5人の女王様が“珍客”を品定めしていた。

女王様

(左上から時計回りに)美加さん、ちづるさん、愛さん、朱音さん、みずほさん。全員現役のダンサーかつ、男どもを手懐ける”女王様”だ

「うっ!」。あまりの圧力に思わず息をのむ俺。O氏はカウンターの端に静かに腰を下ろす。

「あら、貴方は初めてね。初めての人には歓迎の儀式があるの……」

初めてのお客への歓迎の儀式に昇天!?

 にっこりと微笑む女王様たちに、腕を取られると、するすると袖を捲くられた。女王様はろうそくに火をつけると、赤くたぎった蠟が俺の腕にポトリ。ジュッ! 一瞬の痛み。あ、熱ぢぃ! しかし、脳天を衝く痛みは一瞬。痛感が鈍麻したあとに訪れる快感に身が震える。そこには思わず小水、いや笑みを漏らす俺がいた。

ろうそく、鞭などの“調教”は料金に含まれる。

「低温ろうそくだから安心して。本物がよければそっちにするけど」

 女王様たちに嘲笑され、なぜか嬉しくなる俺。隣ではO氏が坐禅で高僧から警策を受けるがごとく、バラ鞭で打たれているではないか。

今回は体験できなかったが、檻の中に入れられての調教もあるらしい……

「ここはSMをコンセプトにしたバー。大人たちが自分の殻を脱いでリラックスする場所なの……」

 聞けば、この西麻布で22年の老舗SMバー。クリエーターや芸能界にも顧客が多く、最近話題の某有名芸能人兄弟の兄も開店当初からの常連だという。偉大な先人の名前に思わずおののく俺。

 といってもガチ調教をするような場所ではなく、女王様に扮したダンサーたちが、ショーを披露し、一緒にお酒を飲んでくれる。女性客やカップル、初心者にも安心なエンタメバーだという。

「ここでは、一番ヒエラルキーが上なのは女性のお客様。その下が私たち。そしてずっと下が“犬コロ”の男性客になるわね……」

“犬コロ”の響きに憑き物が落ちる。ここでは最下層、虚飾も見えも無用。次はどんな“調教”が、と思わず尻尾を振ってしまう俺。

カウンターが上がったり下がったり。セクシー&クールダンスショー

ショー

ショーは一日7~8回、毎回曲を替えて行われる。’70年~’80年代のロックの名曲に合わせて激しく踊る女王様たち

 期待に胸を膨らませていると、店内が暗転。ガンズ・アンド・ローゼスの「Welcometo thejungle」が大音量で流れると、カウンター奥の檻の中で女王様たちのダンスが始まった。ガチャガチャ鳴る鎖。やがて、檻から解き放たれた女王様たちは、眼前で激しく踊る。カウンターが上下し、イリュージョンのようなセクシーでクールなショーが!




 調教のあとの甘美なご褒美。遊び上手な大人が集まる「都会の隠れ家」に身を焦がした夜だった。

【BLACK ROSE】
住:東京都港区西麻布3-24-19 ラ・バース西麻布6F
電:03-3404-5556
営:21時~翌3時(月曜~翌2時)
休:土・日・祝日
料:男性1万1500円、女性6700円、外国人8900円(2ドリンク付き/時間無制限)
●22周年を迎えた老舗。女性客、2次会利用の団体客も多い

撮影/渡辺秀之 協力/O氏(夜遊びガイド)

苫米地 某実話誌で裏風俗潜入記者として足掛け5年。新天地でヌキを封印。好きなタイプは人妻
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