かれこれ十数年前、なけなしのカネを握りしめて行った後楽園。酔客で溢れる屋外に燦然と浮かぶリングがあった。オヤジたちや若者の怒声が響くなか、汗を滴らせ、身体をぶつけあう女子プロレスラー。ブレンバスター、ジャンピングニーパット、ジャイアントスイング。派手な技の応酬に、「ギャァァ」「オラァ」「アァァ」、闇夜に響く甲高くせつない声。「戦うビアガーデン」と銘打たれたその店で、妙な興奮を覚えつつ飲んだビールの味が忘れられない。
たしか新橋の駅前ビルの屋上にあった「ローション相撲」を目玉にしたビアガーデン。金髪のお姉さんが水着でくんずほぐれつする姿に田舎っぺは都会を知った。
お気に入りだった九段会館。靖国神社と武道館を眺めつつ飲んだ生ビール。早い時間はびっくりするほど客がいなくて、ロケーション的に似つかわしくないバニーガールが、粛々とソーセージ盛りを運ぶのを食い入るように見ていた。
俺にとってのビアガーデンは「祝祭空間」だ。開放感と相まった怪しさとある種のいかがわしさ……非日常感のなか飲むビールは格別なのだ。しかし、時代(とき)の流れか、「祝祭空間」は次々と過去のものとなってしまった……。
六本木のど真ん中で夜景と生ビールを
そんななか、今、東京で一番「非日常感」がある街、六本木に突如として現れるビアガーデンがある。
良きにつけ、悪しきにつけ、注目が集まる六本木のランドマーク・ロアビル。その混沌具合に「ギロッポンの九龍城」と呼ばれるビルの一角に「非日常」があるのだ。
なにかと話題の人気クラブへと繋がるエレベーターには「生ビール」の立て看板が。5階で降りると、店に繋がる通路にみっしりと貼られた葦簾と立て看板が海の家を彷彿とさせる。くねくねと曲がった複雑な通路を行くと、外のスペースに繋がる階段が。このダンジョン感が六本木の魅力だろう。
外に出て、階段を下りると突如現れるオープンスペース。屋上ではないものの、ここからの見晴らしは抜群。パッと開いた視界の目の前には、そそり立つ六本木ヒルズ。天空からは青くクールな光が降りてきて、摩天楼は我が世を謳歌しているよう。右を見れば、オレンジ色に輝く東京タワー。ヒルズとは違って、たおやかで優しい光は懐かしくかつ女性的で、おもわずため息が出る……。
東京タワーに釘付けになっていると、「いらっしゃいませ~」と元気な声。両手にジョッキを握り、水着で闊歩する女のコが。「絶景とはこっちの眺めを言うんですよ!」とさっそく鼻の下を伸ばすO氏。女のコも景色も同時に愛でることのできる特等席をゲットする。
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苫米地 某実話誌で裏風俗潜入記者として足掛け5年。新天地でヌキを封印。好きなタイプは人妻
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