民主党のたばこ政策にも地方が“NO!”を突き付けた
“レバ刺し最後の日”と言われた先月30日、全国の焼肉店に並ぶ長蛇の列は、日付の変わる数時間前まで続いた。長きにわたり日本人が愛した食文化のひとつがこの日を境に事実上姿を消した……。
これに先立つ6月8日、社会保障と税の一体改革をめぐり国会の紛糾ばかりが報じられるなか、「がん対策推進基本計画」がひっそりと閣議決定された。’10年に19.5%だった喫煙率を’22年度までに12%を引き下げる「数値目標」が初めて盛り込まれたのだ。
だが、食文化に国が法の網をかける“レバ差し禁止令”に批判の声が上ったように、そもそも嗜好品であるたばこに対して、一律に「数値目標」を設けるこの計画には反論も少なくない……。
6月27日、全国に先駆けて国のたばこ政策に関して意見書を出した、熊本県議会議長の馬場成志氏がいう。
「本来、たばこは嗜好品ですから吸うのも吸わないのも個人の自由。つまり、喫煙率とは、個人の自由意思による選択の結果の数字のはずです。ところが、国は12%という数字を掲げて、特定の水準に誘導しようとしています。しかも、がん検診の受診率を向上させる余地が十分あるのにそちらはおろそかになっている」
さらに、日本一の葉たばこ生産地である熊本県では、「経済面でのダメージは甚大」と馬場氏は話す。
「葉たばこの生産者は、ほかの農産物で失敗して“一時避難”のようなかたちで入ってきている方も多く、ある意味『調整弁』の役割も担っています。つまり、今回の規制は葉たばこ農家に限らず、農業全体に与える影響が計り知れないのです……。しかも、この『数値目標』を達成しようとすれば、公的機関にとどまらず飲食店などに厳格な分煙措置を講じるよう、国が規制に乗り出すことが懸念されます。分煙設備の導入には高額な設備投資が必要ですから、飲食業者の負担は大きい。分煙コストに耐えられない中小の飲食業者のなかには、分煙設備導入を諦める店も出るでしょう。となると、店を全面禁煙にせざるをえない。多くの中小零細の事業者にとっては死活問題になっているのです」
事実、’10年には神奈川県が全国初となる「受動喫煙防止条例」を施行したが、あまりに「厳格」なため飲食業界に大きなダメージを与えている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算によれば、条例施行後の3年間で外食産業はマイナス160億円以上もの“損害”を被ることになるというのだ。
馬場県議会議長が続ける。
「もともとたばこ税は国や地方自治体の重要な一般財源です。’10年度には1兆702億円もの税収を国にもたらしています。ところが、国はたばこ税について『財源目的』から『健康目的』へと大きく舵を切った……。それが、今回の『がん対策推進基本計画』というわけですが、財政再建待ったなし!と消費税増税を推し進める一方で、喫煙者が激減させるようなスタンスを取れば、たばこ税という貴重な財源も大きく減らすことになるのは目に見えています。これに加えて、外食産業に悪影響を及ぼせばさらなる税収の落ち込みが予想される。これでは地方は立ち行かなくなりますよ」
「ヘビースモーカー」としても名高い野田首相、ここ数日は小沢さんの離党問題もあり、さぞやストレスフルに紫煙をくゆらせていたであろう姿が目に浮かぶが……。消費増税同様、民主党政権のたばこ政策が経済に与える影響は少なくないだろう。 <取材・文/SPA!取材班>
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