「もし、あなたが今、いじめられていたら、とにかく逃げなさい」ネットで拡散する2006年に書かれた文章
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
◆この世界ははるかに広く、戦うことより、逃げるほうが賢明なこともある
ここんとこ、僕が2006年に「いじめ」に関して書いた文章が激しくリツーイトされています。もともとは朝日新聞の求めに応じて書いた文章で、「もし、あなたが今、いじめられていたら、とにかく逃げなさい」という内容です。
逃げる前に「遺書」を書き、台所に置いて、学校に行かず、一日中、ブラブラして、大人達に心配をかけて、「死に切れなかった」と言って戻ってきなさい。それでもダメなら、学校宛てに、あなたをいじめている人の名前書いて送って、そして、その学校から逃げなさい。大人だって、会社が嫌なら逃げているのです。逃げることは恥ずかしいことではありません。逃げて逃げて、逃げ続けるのです。
大丈夫。この世界はあなたが思うよりはるかに広いのです。どこかの山にも南の島にも、あなたが生き延びられる場所はあるのです。とにかく逃げなさい――そんな内容です。
書いた当時は、この文章に対する反発もけっこう受けました。「戦わないで逃げてどうする」というのが典型的な反論でした。「戦うことを教えないで、逃げることを勧めるなんて無責任だ」とか「逃げているだけでは、ろくな大人になれない」なんてことも言われました。
でも、最近、ネットではこの文章がさかんにコピーされています。
原因は胸潰れる、上村遼太君の悲しい事件だと思います。18歳や17歳の少年達に日常的にいじめられていた上村君のようなケースで「逃げないで戦え」なんて言える大人はいないと思います。
できることは、戦うことでも無視することでもなく、ただ逃げるだけです。家の事情で引っ越しできないなら、一人でとにかく逃げるのです。
もともと、僕がこの文章を書いたのは、沖縄県の鳩間島の小学校と中学校に海浜留学した子供達と出会ったからです。
鳩間島というのは、西表島のすぐそばにある離島です。島民人口は、数十人ほどです。そこにある小学校と中学校は、廃校の危機から逃れるために、全国から生徒を募集し、そして受け入れていました。
不登校を続けていた子供やいじめられていた子供達がいました。小学六年生の男子は、「鳩間島に来て子供らしくなった」とはにかみました。
小学校・中学校あわせても、十人もいるかいないかの生徒達ですから、陰湿ないじめも起こらず、沖縄の青空と海に囲まれて暮らすうちに、自分の中の「子供」が目覚めたのです。

1
2
『ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)』 『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。 ![]() |
記事一覧へ
|
『この世界はあなたが思うよりはるかに広い』 本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻がいよいよ発売! 鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録 ![]() |
|
『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン』 外国人の素直な目から、ニッポンの奥の深さと可能性を再発見! ![]() |
【関連キーワードから記事を探す】
ブログにママ友たちの個人情報を詳細にアップ…“陰のボスママ”の陰湿な行動
いじめに走るママ友たちの共通点
子供のお受験失敗で“ボスママ”が転落…【ママ友カースト下克上レポート】
貧乏ヤンキーママを学年全員でいじめる…【ママ友カーストの序列】
「鎌倉市図書館のツイートが素晴らしい」いくつかの理由【鴻上尚史】
“日給1万円のバイト先”で見た地獄絵図「朝7時にレモンサワーを飲んでいた」「屋根の上での作業中に飲酒を強要され…」
先輩女性が枕営業を勧める一面も…“生保レディ”が見た闇を赤裸々告白。「月収9000円」だった同僚も
「ワシがルールだ!」アパートに住む70代迷惑老人に“20代の女性大家”が言い放った「会心の一言」
「ウチの会社、法を犯してます」ブラック企業でも倒産しないカラクリをプロが明かす
「レベル低すぎ。小学生かよ」と暴言し放題!横暴な社長の息子に立ち向かった社員の逆転劇
『地面師たち』が大ヒット中のNetflix。“破格の給料”でも業界人が「絶対に入社したくない」ワケ
東京地方裁判所でコロナ発覚。1日も休めない裁判所と報道機関の苦悩
財務省は本気で「デフレ脱却前の消費税10%」が自分たちの仕事だと思っているのか?
「連ドラ撮影は自殺者が出てもおかしくない」若手ADが見た異常な現場
「ブラック労働を報道する自分たちが一番真っ黒」深刻なテレビ業界の人手不足
「決まったことが伝達されるだけ」になってしまった学校の「職員会議」。「学校運営にかかわりあいたくない」という若い教員も多数派に
「プールの水出しっぱなし」事件が今年も続出。13日間出し続け「約300万円の損害」を出した小学校も
「中学生がなぜかハイブランドの財布を…」中学教師に聞いた、令和の学校トラブル。親は「買った覚えない」
「YouTuberの迷惑行為をマネする生徒も」中学教師に聞いた、令和の学校トラブル
「裸の写真がクラスのグループLINEに…」中学教師に聞いた、令和の学校トラブル
「第2の酒鬼薔薇聖斗」はなぜ野放しにされたのか?少年院を満期出所も繰り返された悲劇
少年A、小保方晴子…改めて注目される「名前のない世代」とは?
“元少年A”の有料配信サービス開始で改めて問われる「少年法」と「更生」の意味
「もし、あなたが今、いじめられていたら、とにかく逃げなさい」ネットで拡散する2006年に書かれた文章
この記者は、他にもこんな記事を書いています