「松茸狩り」は想像以上にサバイバルな現場だった…森の中でしのぎを削るキノコ猟師たち
秋の味覚、その王様と言えばやはり松茸をおいて他にはあるまい。この時期、松茸を始めとするキノコは旬を迎え、キング・オブ・キノコである松茸だけではなく天然物のシメジや舞茸は高額で取引されている。そんな旬のキノコを狙うのはキノコ猟師だ。富士山の麓に広がる原生林一帯でキノコ狩りをする40代の男性に話を聞いた。彼にとって、秋のキノコ狩りシーズンは言わば“かき入れ時”となる。
「オレの本業は農家で、その傍らに山菜なんかを採って売ってるんだ。秋になれば野生のキノコを採るんだけどこの時期、高級な松茸だけじゃなくて天然物のシメジや舞茸は高値で取り引きされる。他にもキクラゲ、ナメコ、クロカワなんかも採れればイイ値で売れるんだよ。もちろん天然物だから毎日必ず採れるワケじゃないけど、『採れたら電話くれ』って人で順番待ちになったり、そうじゃなくても地元の販売所に卸せばいいだけだからさ。だから8月の半ば、下旬から10月の終わりにかけてはほぼ毎日森に入るよ。この時期の儲けは多い年だと一年の半分弱。1/3くらいはこの時期に稼ぐわけだから、荒らされることは死活問題なんだよ」
キノコ猟師たちにとって、最も稼ぎが大きいものはやはり松茸だ。その松茸を狙って森の中ではしのぎが削られているという。
「松茸が生える場所ってのは毎年同じなんだ。だから松茸が採れた場所ってのは、オレたちにとっては生命線。オレにもこの世界に入ったときの師匠みたいな人がいるけど、松茸が生えてる場所は弟子でも教えてくれない。松茸の本場って言われる長野とか京都の山は松茸が出てくるシーズンに入れば有刺鉄線張って電気流して24時間体勢でパトロール。噂じゃ地元のチンピラ雇って用心棒にした……なんてことも聞いたことがある。松茸ってもう、そういう存在なんだ。だから、誰でも入れちゃうこの辺り一帯はシーズンインと同時にサバイバル開始(笑)。同業者であっても情報の共有なんて一切しないよ。林道沿いに車を止めて森に入るんだけど、同業者の目をくらますために車を止めた場所から森に入らず、別の場所から入ることもある」
そんな彼に取材班は同行したのだが、それは想像以上にシビアで過酷な現場であった。
森に入って歩くこと20分、それまではキノコ狩り事情を明るく話していた彼は唐突に声を押し殺して言った。
「しゃがんで。声出さないで」
苔と枯れ木に隠れながら、彼は周囲を見渡す。すると、前方30m程先に人影が見えた。「どうしたのか?」という問うと……
「キノコ狩りに来た人だな。近所にいる同業者じゃないんだけど、向こうからオレを見れば“プロ”ってわかるからさ。キノコ狩りする連中は、オレたちみたいなプロがどこで何をしてるのかを調べて、そこから松茸の生息地を割り出すんだよ」
まさか……と思ったが、彼は続ける。
「以前、同業者の知り合いが森の中で松茸を採ってる写真をブログにアップしたんだよ。そしたらこの広大な富士の裾野の森にもかかわらず場所を特定されて、片っ端から掘り起こされたことがあったんだ。タチが悪いのは、シャベルでゴッソリ掘り起してそのまんま。そんなことされたら松茸は二度と生えない。オレたちは別に既得権益があるワケでもないし、素人さんが松茸を見つけて採ってもいいと思ってる。でも、マナーはあるじゃない。そういうマナー違反がここんところ目立つんだ。マジで腹が立つよ」
同行した取材班も森の中で、人工的に掘り起こされた箇所をいくつか目にした。それは自然を愛する者の所業とはとても思うことはできなかった。
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