エンタメ

奇行の果てに緊急入院…カニエ・ウエストの狂気と天才

②曲は書くものではないーーBound 2

「Bound 2」(アルバム『Yeezus』収録)は、ほぼソフトポルノなMVが話題になった一曲だが、それ以上に衝撃的だったのが楽曲の構成だ。ここでカニエがしていることは、異なる既存の曲を交互に流しているだけなのだ。作曲という言葉から通常想像するものとは程遠いかもしれない。 ●Kanye West – Bound 2 (Explicit)
 だがカニエのソングライティングとは、そのチョイスと、曲のどの部分を使うかというジャッジメントに集約される。ヒップホップグループ「ア・トライブ・コールド・クエスト」のメンバー、Qティップはミケランジェロやダミアン・ハーストなどを引き合いに出し、その創作方法をこう分析している。 「必ずしも自分の手で直接キャンバスに触れて作業しなければいけないわけじゃなく、頭の中でアイデアを練り上げるということなんだ。」 (Kirk Walker Graves 『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』 p40 筆者訳)  そうして生まれた「Bound 2」は、カニエ・ウェストの思想であると同時に、他者の筆跡をそのまま残している点で異様だ。特にBBCの「Later…with Jools Holland」で披露したライブバージョンは出色の完成度である。 ●Kanye West – Bound 2 – Later… with Jools Holland – BBC Two

③アメリカのモーツァルトーーRobocop

 スタンダールによる評伝や小林秀雄の批評などでも明らかなように、モーツァルトのおしゃべりや手紙は下ネタやくだらないジョークであふれていたという。そうかと思うと突然ふさぎ込んでみせたりする。  アメリカの雑誌『The Atlantic』(2012年5月号)でカニエを取り上げた記事のタイトルが「American Mozart」なのも、その激しい感情の起伏を踏まえてのことだろう。もちろん性格がそのまま楽曲に反映されるほど単純な話ではない。  だが「Robocop」(アルバム『808s & Heartbreak』収録)を聴いていると、あの有名な―――悪名高い―――「かなしさは疾走する」(小林秀雄)を少しだけ思い出してしまう。もっとも、今回は短調でなく長調なのだが。
「YEEZY BOOST 350 V2」新色

カニエ・ウエストがデザインしたスニーカーは超人気。11月23日に世界同時発売のアディダス「YEEZY BOOST 350 V2」新色は、早くも売れ切れ続出

 それにしてもカニエ・ウェストのような人間も受け入れるアメリカは、懐が深いというかなんというか。日本なら作品の質以前に排除されてしまうだろう。  かつてオバマ大統領はカニエのことを、「とんでもない大バカ野郎だが、才能は認めざるを得ない」と評したという。いずれにせよ、人間の複雑さについて興味をそそられる存在なのは間違いない。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
1
2
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート