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風俗店で一回の射精と一回の恋をして気づく「人を好きになるのに理由なんていらない」――爪切男のタクシー×ハンター【第十四話】

 かくいう私とて、突如訪れた経済的安定により心に異常をきたしていた。実家が抱える多額の借金の影響で、生まれた時からずっと金に苦労してきた私にとって、金に余裕があるという状況は考えられないことであり、それは一種のパニック状態だった。少しでも家計の足しになるようにと、幼少期の私は怪しいバイトをたくさんさせられた。河原に落ちている石を研磨剤でピカピカにする仕事、弁当などによく入っている魚の形をした醤油入れの蓋を閉める仕事、薬草によく似た雑草を探してくる仕事。色々なバイト経験から、学校で勉強するよりも早くに、掛け算や割り算の概念を理解していた。  話は現在に戻る。給料の有効な使い道がわからなかったため、思い切って引っ越しをすることにした。代田橋に新しくできた新築高級マンションへの引っ越し。十三階建ての十三階の部屋への引っ越し。部屋の条件は同棲していた唾売り女の希望に全て合わせたが、マンション名にフェニックスという単語が入っていたので、それだけで私は満足だった。誰だって「ハイツ代田橋」より「フェニックスハイツ代田橋」に住みたいというものだろう。  ベランダから見える東京の景色を見ながら唾売り女は感慨深い表情をしていた。路上の唾売り女からここまで成り上がった彼女の気持ちはどんなものか。十三階から地上に向けて唾を吐いたら映画のワンシーンみたいで格好良いのになと思った。  高級マンションだけあって、二十四時間いつでも住人からのSOSに対応できるように、宿直室に交代制でジジイの管理人が常にスタンバイしていた。二人とも虫が大嫌いだったので、部屋にゴキブリが出た時は退治してもらい、ベランダにセミの死体があった時は掃除してもらった。その都度、チップとして五千円を渡していた。そのたびにジジイは「フヘヘヘッ」と喜んでいた。私もジジイも終わっていた。
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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