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恋人に何度も首を絞められた男が知った真実の愛――爪切男のタクシー×ハンター【第十二話】

終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。 恋人に何度も首を絞められた男が知った真実の愛――爪切男のタクシー×ハンター 【第十二話】「首を絞められたことのない人より、首を絞められたことのある人の方が他人に優しくできる」 シルベスター・スタローンを女にしたような年増のおばさん運転手と話が弾んでいる。渋谷のような場所で女性の深夜勤務となれば、色々と大変なトラブルに巻き込まれたこともあるのではないかと思い、その旨を訊ねてみた。女性ということで、客に舐められてしまうことも多く、時には手を出してくる酷い客もいるらしい。運転中に後ろから首を絞めてきた最悪な客もいたそうだ。スタローンの首を絞めるとは正気の沙汰とは思えぬ蛮行だ。「客に首を絞められた経験がある同業者は意外と多いんですよ」とタクシー運転手あるあるをスタローンは教えてくれたが、顔がスタローンに似ている人の言うことなので、話半分に聞いておくことにした。スタローンによく似た奴は信用するな。 だが、当時の私にとって「首絞め」という単語は、聞き逃すことのできない言葉だった。運転手に私の首絞めにまつわる話を聞いてもらうことにした。 今まで何回も書いてきたことだが、渋谷で働いていた時代、私は彼女と同棲していた。私と出会う前は、新宿の街頭にて、自分の唾を変態唾マニアに売り捌いていた女だ。午前中の唾の売り上げで叙々苑ランチを食し、午後の唾の売り上げで叙々苑のディナーを食していたらしい。 「良い食事をすれば良い唾を出せるの」 「素敵じゃないの」 初めて出会った日にそんな会話を交わした後、私たちは狭い四畳半のワンルームの部屋で同棲を始めた。七年程一緒に暮らし、二回の引っ越しを一緒にして、完済した消費者金融のキャッシュカードを一緒に二枚燃やして、一回の大地震を一緒に経験した。
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同棲を始めてからも…
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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