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風俗店で一回の射精と一回の恋をして気づく「人を好きになるのに理由なんていらない」――爪切男のタクシー×ハンター【第十四話】

 深夜、いつものようにエロ動画サイト更新作業のため、職場で一人残業に勤しむ。目の前には、社長が買ってきた目の入ってないダルマが置いてある。メルマガの目標を達成したら右目、エロ動画サイトの目標を達成したら左目に目を入れることになっており、両方の目標を達成すれば、両目の入ったダルマが完成するという悪趣味な代物だ。  そういえば、ダルマに関してもろくな思い出がない。  高校生の時、一つ年上の従兄が夏休みを利用して東京から私の地元に遊びに来た。私たちはひょんなきっかけから応接間で掴み合いの大喧嘩になり、頭に血が上った従兄は、飾ってあった木製の打ち出の小槌の置物で私の後頭部をフルスイングした。あまりの衝撃で気を失いそうになったが、寸前の所で踏み止まった私は、手元に飾ってあったダルマを従兄の顔面に思い切り叩きつけた。哀れ、従兄は鼻血を流しながら床にぶっ倒れた。自分の勝利を確信した私は、泣きじゃくる従兄の鼻血を指ですくい上げ、ダルマの両目に血で目玉を入れてゲラゲラと笑った。新日本プロレスの伝説の一戦であるグレート・ムタvs新崎“白使”人生戦において、白使が持ち込んだ卒塔婆に白使の血で「死」という血文字を書いた名場面に並ぶ私の人生のハイライトシーンであった。  騒ぎを聞いて駆け付けた親父は、その場の有様を見て、この世の地獄だと思ったらしい。借金に悩む我が家の金運を少しでも上げようと思い、縁起物として買った打ち出の小槌とダルマが血の惨劇を引き起こしたのだ。人の願いなど叶うはずもない。ちなみに喧嘩の原因は、小説『ノルウェイの森』の中のエロいシーンのページに軽く折り目を入れて目印を付けている所を従兄に目撃され、ひどくバカにされたことに私が腹を立てたことが原因である。村上春樹のせいで血の惨劇が起きたのだ。全ては春樹が悪い。そんな春樹がノーベル文学賞を取るかどうかで毎回世を賑わしている。良い世の中になったものだ。
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仕事が一段落した私は…
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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