風俗店で一回の射精と一回の恋をして気づく「人を好きになるのに理由なんていらない」――爪切男のタクシー×ハンター【第十四話】
こんなに女性をいとおしく思ったのは初めてだ。
嫌がる彼女を制してダルマの顔をこっちに向ける。「やだ!」。彼女がダルマの顔を壁に向ける。「いいじゃないのよ」。私がダルマの顔を再びこっちに向ける。私はダルマの顔を見ながら射精した。ダルマよ、これが人間だ。ダルマが嫉妬するぐらい熱く愛し合った私と彼女はベッドの上でイチャイチャとした時間を過ごす。「私、ダルマに目を入れるのしたかったんだよね~」と彼女が言う。私はダルマをじっと見つめる。
「やっとくれ」
ダルマがそう言っている気がした。そうだよな、ダルマだって可愛い女に目を入れられた方が嬉しいよな。私は彼女に目を入れてもらうことにした。フロントから無理やり借りて来た油性ペンを彼女に渡す。彼女は嬉しそうにダルマに目を入れ始める。片目を入れた所で「こっちの目はお兄さんが入れて! 共同作業にしよ!」と彼女は微笑む。私は満面の笑みで、彼女から油性ペンを受け取った。片目のダルマも微笑んでいた。
「ねぇ……お兄さんはなんでダルマ持ってたの? 最初マジで怖かったんだけど(笑)」
「……職場から盗んできた」
「ダルマを?(笑)」
「ダルマを」
「なんで?(笑)」
「分からない(笑)」
「返さないと怒られるんじゃない?」
「怒られるかな」
「泥棒だもん」
「ダルマ盗んだぐらいで滅茶苦茶怒られるのは何だか納得がいかない」
「怒る方だってダルマのことで真剣に怒るの嫌だよ(笑)」
「確かに……」
「明日、なんでダルマを盗んだんだ!って言われるよ絶対」
「本当に理由はないんだよ……困ったな」
「そっか……でもさ、理由なんてない!ってことたくさんあるよね」
「たとえば?」
「恋をするのに理由なんていらないでしょ? 人を好きになるのに理由なんていらないもん」
「……素敵じゃないの」
「だしょ?」
「ダルマと恋を一緒に語れる君は本当に可愛いよ」
「好きになった?」
「なった」
「えへへ」
「だからダルマは返さない」
「え?」
「君と一緒に目を入れた大切なダルマだから返さない、家で大事にするよ」
「変な人……」
「好きになった?」
「好きにはなれない(笑)」
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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