ブラインドサッカーの正しい楽しみ方とは?
しかし、「耳で探る」という意味では微妙でしたが、見ていくうちに「そういうことじゃないんだ」と気づきます。
この競技は耳がスゴイかどうかを競っているのではなく、「勇気」がどれぐらいあるかを競っていたのです。
ブラインドサッカーでは、とにかくものすごく接触プレーが多いのです。
目隠ししているのですから当然ですが、あらゆる場面で接触が起き、激しく転倒します。フェンス沿いともなればフェンスに身体を叩きつけながら選手たちが詰め寄ってきます。
そうした接触プレーを避けるために、
ボールにアクションするときは「ボイ!(スペイン語で「行く」の意味)」という掛け声を出すことになっているのですが、
ボールの場所が正確にわからないので基本的に全員「ボイ!」「ボイ!」と言いながら集まっていく格好に。3人、4人と一か所に集まってボイボイ言うものですから、掛け声としての意味はなくなっています。
「ボイ!」「ボイ!」と言いながら味方同士でぶつかって倒れるなんて場面も。
とにかく、常に誰かとぶつかり、どこかにぶつかり、
通常のサッカー以上に身体を傷めつけています。
それでもひるむことなくダッシュし、接触し、転倒する姿は、「勇気」という意味では驚くようなものでした。
車イスラグビーや、車イスバスケでも接触や転倒はもちろんありますが、あちらは基本的に肢体に難のある人の戦い。当たる前にはお互い目視できますし、覚悟もできます。しかし、
ブラインドサッカーでは見えない状態で走り、見えないまま突然ぶつかる。しかも、足に難があるわけではないので走るスピードは速い。これはさまざまなスポーツのなかでも、とびきり怖い接触でしょう。
「目が見えない人でもゴールにボールを入れる競技を楽しむにはどうすべきか」という点に軸を置いて発展したのがゴールボールだとすれば、
「サッカー風のルールでどれだけ勇気があるかを競う」ことを軸に発展したのがブラインドサッカーなのではないか。
無茶を織り交ぜてなるべくサッカーの原型を保ったルールと、接触を恐れずに突っ込んでいく選手たちの勇気。
視覚に難のある人の競技には「伴走者」がつくことが多いものですが、その至れり尽くせりのサポートをやめて、勇気ひとつでやってみたところにブラインドサッカーの真骨頂がある。
ボール扱いとか華麗なテクニックとかではなく、
恐れずひるまず立ち向かう「勇気」を観戦するスポーツなのだと感じました。
手をこすりながら寒さを気合いで乗り切るブラジル代表。雨にも負けない強い気持ちを感じる……
結局この大会はブラジル代表が決勝戦に2-0で勝利し、クラブチーム選手権を制覇。
「日本のクラブチームの選手権に、ブラジルの代表チームが参加し、優勝して終わる」
という、なかなかワイルドな決着となりました。
「ブラジル代表が優勝してもいいんだろうか?」という不安や恐れにひるむことなく、勇気をもって果敢にトライする、まさにブラインドサッカー的な決着だったように思います。
「ボールをゴールに入れる面白いゲームが見たい」という向きには、正直オススメしかねる感じもありますが、
「勇敢な人を見たい」という需要には、ブラインドサッカーは全力で応えてくれそうです。
ルール的にも見た目的にも「サッカーっぽさ」は色濃く残っていますし、サッカー以上に激しさはある。選手たちの勇敢なプレーを見れば、こちらも強い気持ちで「2020年の東京大会でサッカーを見た」と言い張ることができる気がします。
どうしてもサッカーを見たい人は、こちらも視野に入れてチケット争奪戦に臨むといいかもしれません。
今後は、この感じでほかの注目競技にもブラインド展開があると、
「ブラインド野球(見えてないけど全力投球/ヘルメットかぶってればギリいけそう、という強い気持ち)」や
「ブラインド体操(見えてないけど宙返り/大事なのは感覚なのでイケる気がする、という強い気持ち)」など、
人気競技にも観戦チャンスが生まれるかもしれません。
できないと決めつけるのではなく、勇気をもってやってみたら意外にできちゃったというパターン、あるかもしれませんからね。