深夜のフリーウェイをTOKYOへ――フミ斎藤のプロレス読本#009【Midnight Soul編4】
全員がそろったところで、人ごみをかき分けるようにして大きなバスはゆっくりと走りだした。名古屋から東京まではどんなに飛ばしても5時間はかかるだろう。バスが広い通りに出たところで、ぼくは斜めまえの座席に腰をおろした服部に声をかけた。
「服部さん、マサさんはこっちには乗らないんですか」
「あれーっ? ユーだったの、そこにいたのは。オレはまたケンスケが座っているもんだとばかり思っていたよ」
外国人選手用バスのボスはマサ斎藤である。マサは、ぼくが新米記者だったころレスリング・ビジネスのなんたるかを教えてくれた先生だ。もっと正確にいえば、マサと初めて会ったとき、ぼくはまだ大学生だった。
きょうもこのバスに乗せてもらったら、マサとゆっくりおしゃべりができるだろう思っていたが、どうやら当てが外れた。
「マサさんはね、あっちのバス。いま長州が休んでるでしょ。だから、いちおう日本人のほうの指揮をとるっていうの?」
「健介は?」
「ケンスケはこっちだったり、あっちだったり。きょうはいないみたいだね」
マサは、首の負傷で欠場している現場監督の長州力に代わって、今回の巡業中は日本人サイドといっしょに行動しているのだという。プロ野球でいえば、ちょうど監督代行だ。
さっき、体育館の外でファンを蹴散らしていたホークのタッグ・パートナーでパワー・ウォリアーを名乗っている佐々木健介も、きょうは日本人選手用のバスに乗ったようだ。
薄暗いバスの隅のほうでだれともしゃべらずにじっとおとなしくしていたぼくを、服部は健介と見まちがえていた。つねに緊張感の高いハードな試合をしている健介は、きっとこのバスのなかではグーグー眠ってばかりいるのだろう。
たしかに健介とぼくは同じような髪形をしている。アメリカではマレットMulletと呼ばれる、頭のてっぺんと耳の上は刈り上げで後ろだけ長く伸ばしたヘアスタイルだ。身長もそんなに変わらない。でも、体格があまりにもちがう。
ひょっとすると、いまぼくが座っているこの席はいつも健介が指定席にしている場所なのだろうか。
「ヘイ、ガイズ。映画でも観るかい?」
服部が後方の座席に陣どったスーパーヘビー級軍団に声をかけた。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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