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原爆は落とされたほうが悪いのか? 北朝鮮と中国の核に対抗する議論を【評論家・江崎道朗】

「日本はアジアの味方です」

原爆は落とされたほうが悪いのか? 北朝鮮と中国の核に対抗する議論を【評論家・江崎道朗】 マジットさんは講演の中でもう一人、マレーシアの外務大臣についてもこう紹介した。 《今から20年近く前のことです。  ASEANを創設した功績で、国連ハマーショルド賞をもらったマレーシアのガザリー・シャフェー外務大臣が、広島に来たことがあります。  ガザリー博士が広島の原爆慰霊碑の前に来たら、そこである日本の中学校の女の先生がこう説明していたのです。 「先の戦争は侵略戦争です。日本はアジアを侵略したのです。日本軍将兵は残虐だから、アメリカが原爆を投下したのです。日本人は反省しなくてはなりません。アメリカ軍の原爆投下なくして、日本民族は反省しなかったと思います。アメリカは日本人を真面目にしてくれた恩人です。」  これを聞いて、ガザリー博士は大変驚きました。  しかも、その女の先生はクアラルンプールの日本人学校にいたことのある人で、ガザリー博士は昔から知っていた。  それで、ガザリー外相は次のように語りました。 「大東亜戦争によって植民地体制が崩壊したから、アジア・アフリカは独立のチャンスを掴んだのです。アジアは500年間、ヨーロッパ人の搾取と弾圧に苦しんだのです。アジア人は何度も植民地主義者と戦ったが、植民地体制は粉砕できませんでした。日本軍がアジアの代表として粉砕してくれました。  アメリカはヨーロッパの味方だから、アメリカとヨーロッパはアジアの敵で、そのアメリカやイギリスやオランダと戦った日本は、アジアの味方です。  あれから、米ソの核弾頭つきミサイルの製造競争が始まりました。現在の核は地球を80回も破壊する力がありますし、『イスラエルが核兵器をもっている』と分かった時から、核はリビヤ、イラク、パキスタンと拡散していますから、核戦争が各地で起きると地球は終わりになります。  ですから、この原爆ドームをワシントン広場に移して、メモリアルの銅版に「原爆を投下して日本人に申し訳無いことをしました。許してください。今日の核競争時代をもたらしたのは、アメリカ政府です。世界人類におわびします」と、彫るべきでしょう。  いいですか。謝罪すべきはアメリカです。  そして謝罪されるのは、広島と長崎の市民を含む全人類なんです」》

原爆の日こそ北朝鮮、中国を含む核兵器所有国を批判すべき

 このようにASEAN諸国を代表する二人の外務大臣の発言を紹介した上で、マジットさんは講演においてこう断言した。 《原爆投下を反省すべきはアメリカです。日本ではありません。  アメリカはデモクラシーの国なのに、広島、長崎で子供たちまで殺してなぜ謝らないのか。私たちアジアは、疑問に思っているのです。  また、反省すべきは、核兵器を開発している国々です。それはアメリカであり、ロシアであり、中国です。これらの国こそ反省して核兵器を廃棄してほしいと熱願しています。》  補足しておくと、原爆投下を決断したのはトルーマン民主党政権であって、当時もアメリカの海軍や国務省の中には原爆投下に反対する意見が存在していた。この点を踏まえれば、マジットさんの意見に全面的に賛成だ。  非戦闘員が大半を占める広島・長崎に原爆を投下したことは明らかに国際法違反であり、落とした方が悪い。  現在で言えば、核兵器ミサイルを開発し、平和を脅かしているのは北朝鮮と中国であって、安倍政権ではない。  にも拘わらず日本のマスコミは、「日本が悪かったから原爆を落とされたんだ」といったトーンで過去の日本を非難するだけで、現在の問題、つまり核ミサイルを日本に向けている中国や北朝鮮への対抗手段を議論しようとしない。  「再び核兵器の犠牲者を出さない」ための前向きな議論こそ原爆の日にふさわしいはずなのだが、そうなると、中国や北朝鮮の核兵器への対抗策に触れざるを得ない。果たして日本のマスコミにそうした議論を行う勇気と見識があるだろうか。注目しておきたい。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。
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