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50歳男性の「女湯侵入事件」が発生。これを珍事件として片づけてはいけない――カリスマ男の娘・大島薫

では、LGBT用のトイレを作ればいいのか?

 では、もっとシステマチックに「医者の診断書などがあるかどうか」を判断基準にするというのはどうだろうか。男性から女性に性別を変更したい人などは、その条件として医師の診断書を必要とされる。つまり、精神医学上は人間の心の性別を診断できるというわけだから、そういうものを持っていれば医師が診断した性別の通りの公共施設を利用できるとしてしまう。これは一見公平そうに見える。  しかし、今まで普通に男湯を利用できていたゲイの人や、女湯を利用していたレズビアンの人はどうなるのだろうか。見た目と心の性別が伴っているが、性的な指向が同性に向いているという場合だ。  例えばあなたが男性だったとして、何も知らずにゲイの人と一緒に銭湯に入っているぶんには構わないが、もしその客の中に自分を性的な目線で見る人物が紛れ込んでるとしたら、ちょっと不快だと感じるのではないだろうか。これは女湯のレズビアンでも同じことが言える。  もちろんゲイが全員見境なく男性に欲情するわけではないが、これはつまり前項で上げたMtFのレズビアンが女湯に入れてしまうという一例にもなる。結局心の性別がどちらであろうと、性的な目的を持ってそこに侵入する行為に対する嫌悪感は変わらない。  だからといって、レズビアンの女性が女性に欲情してしまうからと男湯に入ってなんの精神的苦痛を感じないわけでもない。だって欲情されること自体が気持ち悪いのはセクシャルマイノリティー当事者だって変わらないのだから。  では、いっそのことセクシャルマイノリティーはみんな一緒くたに『セクシャルマイノリティー用風呂』や『セクシャルマイノリティートイレ』に行くというのはどうだろう。  去年5月にはディスカウント店大手のドン・キホーテが東京・渋谷で移転した際に「ALL GENDER トイレ」を設置し、LGBT用トイレとして話題になった。このようにそういう人々専用の施設を設けてしまえばいいのだろうか。  しかし、考えてもみてほしい。もしあなたが他人とは違う性指向を持っていて、それがまだまだ世間に認知されていないものだとして、その施設に入ることがそのままカミングアウトに繋がってしまうような場所に堂々と入っていけるだろうか。そのLGBT用トイレを利用すること自体が、自ら「私はLGBTでございます!」と宣言することになってしまうとは思わないだろうか。  実際、先のドン・キホーテのトイレの件も、「LGBTに理解がある!」と称賛する声とともに、「踏み絵にしか感じられない」とする意見も殺到した。

では、ボクは普段どうしているのか

 さて、さまざまな例とともに、多様性を認めるというのはどういうことかを、できるだけ客観的に述べてきたつもりだが、実際問題、ボクはどうしているだろうか。  基本的にボクは公共の入浴施設には行かないし、公衆トイレを利用する際はできるだけ多目的トイレを利用するようにしている。もし多目的トイレがなく、どうしようもないときは男子トイレに入っている。  身体は男性だし、性対象は男性・女性両方なので、強いていうなら男子トイレが適切かと思い、そうしているわけだが、それでもやはりたまに男性から「女が男子トイレに入ってくるな!」と叱られる。何を着ようと、誰を好きになろうと個人の勝手だと思う反面、正直そこは申し訳ないなと思う気持ちもある。  なんといっても公共の施設だ。礼儀作法があるように、外での振る舞いは常識的なマナーがあってしかるべきだとボクも思う。しかし、常識というのも刻一刻と変化していくなかで、性の多様化も例外ではない。  これはなにも、性別の違和感や、性対象への違和感を持ってない人だけが理解すべき問題ではない。本質的にはGはLを、LはGを、LやGはBを、彼らみんながTを理解していなかったりする。  本当の意味で我々が多様性を認め、生きやすい平等な社会を迎えられる日は来るのだろうか。ほんのひと昔前、かつて変態趣味と呼ばれた同性愛者が認められつつある一方、このような事件を珍事件と笑っていられる世の中がいつまで続くのだろうか。 【大島薫】 作家。文筆家。ゲイビデオモデルを経て、一般アダルトビデオ作品にも出演。2016年に引退した後には執筆活動のほか、映画、テレビ、ネットメディアに多数出演する。著書に『大島薫先生が教えるセックスよりも気持ちイイこと』(マイウェイ出版)。大島薫オフィシャルブログ(http://www.diamondblog.jp/official/kaoru_oshima/)。ツイッターアカウントは@Oshima_Kaoru。コミックエッセイ『男の娘どうし恋愛中。』が発売中
1989年6月7日生まれ。男性でありながらAV女優として、大手AVメーカーKMPにて初の専属女優契約を結ぶ2015年にAV女優を引退し、現在は作家活動を行っている。ツイッター@OshimaKaoru
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