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海なし県の埼玉にそびえる、巨船を模したラブホの正体は?/文筆家・古谷経衡

船が好きでなくても……

 実は筆者は、船は余り好きでは無い。船酔いが大の苦手なのだ。金の無い大学1年生の時、北海道に帰省するのに福井県敦賀・京都府舞鶴~北海道小樽・苫小牧を結ぶ「新日本海フェリー」、および茨城県大洗と苫小牧を結ぶ「商船三井フェリー」に幾度となく乗った。双方、客船は1万数千トンを超える巨体で、魚雷を何本か喰らった程度では沈まなそうな圧迫感があった。  京都と北海道の航路は片道約20時間超。大洗と苫小牧は18時間、という気の遠くなるような時間だった。だが何故乗ったのかと言えばその運賃の安さ。当時、京都と北海道を一番下の二等で正規料金が約7000円だった。これに学生証を提示すれば更に2割引になり5000円台となる。親には新千歳―関空の飛行機で帰るから―と5万円分の往復航空券代金を出させ、実際には往復1万円の船便で往来して差額の4万円分を小遣いに充填しようという計画であった。  大学1年生にとって4万円は貴重だ。しかし、幾ら巨船でもゆっくり振り子のように揺れる船室は吐瀉寸前で、余り良い思い出は無い。今想い出すと、4万円欲しいが為に40時間以上(約2日間)を犠牲にした寸法である。実に馬鹿らしかったがそれも昔の話。現在、燃油代金の高騰の関係で運賃は高騰を続け、片道1万円する。繁忙期なら最低席で片道なんと約1万7000円だ。これではよほど時間に余裕のある有閑層でない限り、飛行機を使うであろう。 「クイーンエリザベス石庭」は私の大嫌いな船酔いが無いばかりか、宿泊が5900円~と、極めて廉価である。川口で一寸変わった嗜好、かつ大衆的な値段設定のラブホを狙うなら、まず当該物件で間違いは無い。

廊下にも船窓が並ぶ

筆者は泊まらなかったが、304号室には露天風呂も完備(室内モニターより)

●ラブホテルQ&A Q ラブホテルでクレジットカードは使えますか? A 現在、殆どのラブホテルでクレジットカードによる決済が可能です。なぜなら、室内精算機(客室の中で自動精算する機械)が普及しているからです。むろん、チェックイン時にフロントでその旨を伝えても問題ありません。新規に改装した、いわゆる「リゾート型」のラブホテルで、クレジットカードによる決済に対応していない物件を見つけることの方が至難と言えましょう。  しかしながら本稿にも書いたように、「従来型」つまり「遊び」「ハレ」「豊富なルームメニューなど」を一切無視して、ひたすら低価格・高回転を狙う物件は現金商法であることが多いです。当たり前ですがカード決済を導入するためには、店舗側にカード会社への負担金(売り上げの数%の手数料)が付加されるからです。  ラブホテル検索サイトではカード決済の有無まで載っていない物件が少なくなく、そこは実際に実地を踏むしかありません。「あの、ボク、カードしか無いんで…」と言って恥ずかしげにATMに向かってきびすを返す間に他の客に室を取られます。そういう「タッチの差」での入室の可不可が本当に多い業界ですので、くれぐれも現金とカードを財布に併用して物件に入店ください。当然、カードの場合は限度額も慎重に確認するように。念には念を入れましょう。ラブホは瞬間瞬間の判断がのち運命を左右するギャンブル性の高い物件なのです。
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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