更新日:2019年09月27日 15:19
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米朝首脳会談の決裂は想定通り!? 誰も現状打破を望んでいない/倉山満

 さて、現代は現状維持勢力と打破勢力の相克で動く。ただし、世界大戦のように劇的に動く時はめったに来ない。では、東アジアにおいて、誰が――今この瞬間の――現状打破を望んでいるだろうか?  昨年の米朝会談で、北朝鮮は核兵器の全面廃棄と今後の核実験の中止を約束した。約束を履行した場合の経済援助も含みに。  北朝鮮の望みは、体制維持である。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。アメリカに届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出した。間違っても、戦争など望まない。  この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じである。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、ド~でもいい。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまりアメリカ)に渡すことは容認できない。だから、後ろ盾になっているのである。結束してアメリカの半島への介入を阻止し、北朝鮮の体制維持を支えるのだ。軍事的、経済的、外交的、あらゆる手段で。  ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、アメリカの国力は世界最大だ。現状打破の時期とは思っていない。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずがない。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのだ。少なくとも、今この瞬間は。  では、アメリカのほうはどうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できない。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのか。さらに、北の背後には中露両国が控えている。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられない。  しかも、文在寅は在韓米軍の撤退を本気で考えている。そうなれば、朝鮮半島が大陸(とその手下の北朝鮮)の勢力下に落ちる。ならば、少しでも韓国陥落を遅らせるのが現実的であって、38度線の北側の現状変更など妄想だ。  昨年の米朝合意は特に期限を設けていない。「本気で核廃絶する気があるのか?」「あるから制裁を解除しろ。金寄越せ」「順序が違う!」と罵りあっていて、何も困ることはない。成果など不要だ。  さて、米中露北の関係4か国の中で――今この瞬間の――現状打破を望む国はゼロである。関係者すべてがStatus quoを望んでいるのである。「米朝会談成果なし」など、外交の素人のタワゴトである。
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外交交渉における「成果」とは?
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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