更新日:2023年03月20日 10:51
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マフラーは首に巻くもの。そう思っていた時期もありました――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第38話>

トンネルは、首なしライダーの霊が夜な夜な現れるといった

 「くっだらねえ」  仲間の一人が高岡の提案を一蹴した。  「首なしライダーなんているわけないだろ」  「子供みたいなこと言ってんなよ」  「だいたい誰かの作り話なんだよな、そういうの。それがどんどん変化しながら伝わってるの」  「そもそも首がなかったら死んでるだろ」  それに続いて皆が口々に高岡の提案を否定した。一人だけかなりピントが外れたことを言っているが、まあ、何を隠そうそれが僕だ。とにかくみんな行きたくない様子だった。  そもそも、高岡の言う幽霊トンネルはここから自転車で1時間はかかる。おまけにものすごい坂道の先にある場所ときく。そんな場所に夜中に行って何になるというのだろうか。  「そうか……」  僕らの反応を見て高岡は心底残念そうな表情を見せた。高岡は本当に子供っぽいところがある。もう僕らも高校生だ。心霊スポットに1時間かけていくほどの元気はもうない。そういうのは中学までで卒業だ。俺たちはもう、そこまでガキじゃねえんだ。  「そんな場所に行ってなんになる。俺たちもうガキじゃねえんだ」  誰かのその言葉に高岡は視線を外しながら呟いた。  「いま女の子とかめちゃくちゃ肝試しにきてるらしいからナンパとかできると思ったんだけどなあ、残念だなあ」  その言葉に、高岡以外の全員が「なんだって!?」という表情を見せた。  女の子グループが恐ろしいトンネルに肝試しに来る。そこで出会った少し頼れるアイツ。首なしライダーは出なかったけど、私はあの人に首ったけ。これはもう行くしかないんじゃないか。僕たちは心底単純だった。  けれども、あれだけ高岡の提案をけなした僕たちだ。いまさら手の平を返して「行こう」とは言いづらい。そもそも高岡は「回送中」というバスの表示を見て「どこの中学だよ、殴り込みに行こうぜ!」と言うほどの血気盛んなバカだ。彼をあまり刺激してはいけない。  高岡以外の全員が同じ意見だったようで、悶々とした表情を見せた。ギャルがいるなら行きたい、でも今更言えない。僕らは葛藤の中に生きていた。分厚い入道雲が空を流れ、セミの声がやっぱりうるさかった。
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その夜、ギャル目当てで一人トンネルを訪れると案の定
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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