更新日:2023年03月20日 10:51
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マフラーは首に巻くもの。そう思っていた時期もありました――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第38話>

首に巻いていないのは高岡だけだった

 「いま何か動いた?」  トンネルの中は申し訳程度の明かりが灯っていて、その朧な光が不気味さを一層引き立てていたが、その明かりの下でいままさに何かが動いた。  まさか首なしライダーが? それともギャルが? 恐怖で逃げ出したかったが、ギャルだった場合は大チャンスなので、ゆっくりと近づいてみた。  友人たちがいた。  昼間のメンツが大集合していた。高岡も、それ以外のメンツも、しっかりと揃っていた。  「いや、俺はまさかいないとは思うけど、首なしライダーのバイクが気になってな。きっとKawasakiだと思って」  「俺はどうせお前らが来るだろうと思って待ってたわけよ」  「俺は暇だったから昼間の話を思い出してな」  みんな口々に理由を述べたが、ギャルとは一言も言わなかった。  「ひどいんだぜ、こいつら。昼間は行かないって言ったくせにさ」  高岡が少し膨れて言った。そして勝ち誇ったように続けた。  「それにしてもお前ら本当に首なしライダー信じていたんだな。首に赤いもの巻いてさ。バカなんじゃないの?」  見ると、高岡以外の全員が首に赤いタオルや赤い紐を巻いてきている。高岡だけ何も巻いてなかった。  「もうガキじゃないって言ってたくせにさ、バカなんじゃないの?」  回送中を新進気鋭の中学校だと勘違いして殴り込みに行こうとしていた高岡に言われるとがっかりきてしまうが、僕らは本当に首に赤いものを巻いていたので言い返すことができない。  お前だって本当は信じているんだろう。お前のバカさなら間違えて手首とか足首に赤いものをまいてるんじゃないか。そう誰かが指摘して高岡の手足を調べたが、やはり赤いものはなかった。高岡は勝ち誇った顔をした。 「とにかく帰ろうぜ」  ギャルがいないのならこんなところにいる必要性がない。1時間かけて街に帰らなければならないのだ。
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とんでもない場所にあった高岡のマフラー
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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