更新日:2023年04月27日 10:26
ライフ

ロスジェネ世代の発達障害者が就職難の時代を経て気がついたこと

ADHDで良かったと思うこと

 ビールをぐっと飲みほして、松村さんはちょっと真剣な顔つきになりました。その表情に引き込まれるように僕はじっと彼を見続けました。 松村「ただ、これはADHDで良かったと思うんだけど、いわゆるロスジェネ世代って就職氷河期で入社と社会人経験で苦労するぶん、自己肯定感が低いって言われるじゃない? 実際、就職でうまくいかなかったり、派遣やっていた時は相当自己肯定感が下がったもん。  でもさ、僕の場合、ADHDだからか、その時の記憶があんまりないんだよね。よくさ、ASD(自閉症スペクトラム)の場合、細部まで覚えているっていうじゃん。でも僕は、本当に今が楽しいから忘れているんだよ。本当にここは発達障害で良かったと思う(笑)」  松村さんのように、就職氷河期に苦労し、正社員から派遣まで経験した場合、やっぱり自己肯定感は低くなります。僕自身、ASDの特性が強いため、過去の嫌な記憶(例えば、幼少期に親に言われた「単語」やいじめられた時の状況など)は、かなり鮮明に思い出すことができます。  ただ、何かに集中しているとき、いわゆる過集中に入り、モードが切り替われば、そうした記憶を完全に忘れ去ることができます。フラッシュバックのように思い出すこともありますが、基本的には、何かに集中していれば、過去の記憶に悩まされることはありません。  松村さんのように、完全に忘れ去れるのも、それはそれでレアなケースかと思いますが、たしかに関心がフラフラ揺れているADHDにとって、過去の嫌な記憶は、こだわる必要のない、不必要なものだというのも理解できる話です。 松村「あっ、そうだ。目的を忘れていたよ!」 光武「?????」 松村「今日はさ、実は報告があってお店に来たんだよね」 光武「そうだったんですね。ぜひ教えてください」 松村「えーっと、改めて言うのも恥ずかしいのだけど、実は43になり、結婚がきまりました!!!!!」 光武「おーーーーーーーーーーーーーー」  ロスジェネ世代は第3次ベビーブームとなるはずだった世代にもかかわらず、未婚率30%という現実があります。そんななか、松村さんの報告は非常にうれしいものがありました。 光武「これは、祝杯ですね!」 松村「ありがとう!で、勝手にシャンパン持ってきたら、一緒に付き合ってよ(笑)」 光武「はははは、かしこまりました」  楽しそうな松村さんの表情につられ、僕もいつの間にか仕事を忘れてお酒を楽しんでしまいました。今日もブラッツは大盛況です。さて、そろそろ接客に戻らないといけませんね。それではまたのご来店をお待ちしております。 *お客側の登場人物はプライバシーの問題から情報を脚色して掲載しています。 <文/光武克 構成/姫野桂 撮影/渡辺秀之>
(みつたけ・すぐる) 発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP(brats.shopinfo.jp) ツイッターアカウント「@bar_brats
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※ユーチューブチャンネル「ぽんこつニュース」でも光武さんが発達障害バーの日々を配信中

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