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夜のスナックで働くわたしがコロナについて考えていること

コロナよりも身近なトラブルが話題

 繁華街という、夜の街のコミュニティでも似たような状況が窺える。  365日夜の街を闊歩している人間たちにとって、今回のコロナ騒動は発端から現在に至るまでさほど気に掛ける事柄として捉えられていないらしい。  田舎では、どんな国際情勢天変地異よりも、はす向かいの佐藤さんが不倫していただとか、葬式で鈴木さんと近藤さんが揉めただとかのご近所トラブルが話題の中心であるように、そしてその情報を得るためには労力を惜しまないように、夜の街では、○○さんがさっきあの店で飲んでた、とか、昨日あの店で○○さんと××さんが乱闘騒ぎになったとか、そんな身近な話題が最優先であるし、その話題を逃さないためならいかに新型のウイルスが蔓延していようと集団でこぞって飲み歩くのである。 「コロナコロナって、みんなしみったれてるよ」  夜の街コミュニティでは、コロナを気にする方が面倒くさい悪い奴のようだ。カウンターには消毒液を置いてあるが、ほとんどの人が使おうとはしない。 「みんなとりあえず来たら消毒はして!」。本当は声を大にしてそう言いたい。言いたいが、言えばきっと鬱陶しい目で見られるし、言っても「俺は大丈夫」とかいう謎の自身に満ちた回答が返ってくる。一体何が大丈夫だと言うのか? 自分はパーフェクトに清潔だとでも? できる予防をわざわざしないというのは何なのか。それもまた、自分が「強い」という無意味で愚かなアピールに感じられて仕方がない。  言い換えればそれは、強い自分以外はどうでも良いという無責任以外の何物でもないのではないか。決定的な物差しの違いを感じるが、この場以外で露骨に険を浮かべることもまたできない。わたしは、いつもよりマイクを離して歌ったり、唾を浴びない距離で話をしたりするよりほかない。  田舎同様、夜の街のコミュニティもまた、周囲の目が優先であり、個人の思想は後回しにされてしまうのだから。  陰気でしみったれてるのはわかる。  ぶっちゃけ今回記事を書くにあたって、最初に思ったことは「なんも面白いことねぇな」だった。『酔いどれスナック珍怪記』に書くべき出来事なんて、平和な世の中が前提の産物でしかないからだ。  せめて消毒してほしいだとかなんだとか、細かいこと、ホントはあんまり言いたくない。  だけど、カラオケも、乱痴気騒ぎも夜の濃厚接触も、コロナが流行ってる状況下じゃ何も楽しくないし楽しめない。早くいつも通りの平穏が戻って、何も気にせずに皆でわいわい酒を飲みたい。  少しでも早く収束させるために、そしてこれ以上感染拡大しないためにも、お店側は最大限の注意を払って開けているんだから、来る側のみんなも気を付けてほしいし、できる限りの予防はしてほしい。そんなに難しいことをお願いしているんじゃないんだから。飲み屋という多数の人が交わる空間だからこそ、自分以外の全体への配慮も必要だ。  この先長く美味い酒を飲むためにも、今少しでも、皆で努力しようよ酔っ払いたち。そんなことを思う、ほろ酔いの四月一日でありました。<イラスト/粒アンコ>
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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