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マンガ『キングダム』の王騎将軍はなぜここまで人気があるのか?

自分が誰の影響を受けているのか思い出そう

 前述したように王騎は16巻という物語の序盤で、「武神」の異名を持つ龐煖との死闘の末、命を落とします。この時に王騎は自分が戦場で使っていた矛を信に譲り渡します。譲り受けた信はその矛に重みを感じて、「これを振れるくらいでなくては天下の大将軍にはなれない」と奮起します。信が感じている矛の重みはもちろん物理的な重さだけでなく、「あの王騎将軍が使っていた」という心の重みです。その心の重みが心の強さに変わり、限界を感じていた信が成長するきっかけになります。  もう一つの遺産は「将軍が見る風景」です。王騎が龐煖から致命傷を受けた時、秦軍は敵軍に包囲されて絶体絶命の状態でした。そこから蒙武という武将の行動をきっかけにして包囲網を突破するのですが、この時、信は馬上で意識を失った王騎に代わり、彼の馬にまたがって走らせます。その後、意識を取り戻した王騎はその馬上の風景について、「これが将軍の見る風景です」と信に教えます。それは百人将だった信が経験したことのない大きなスケールの視点でした。  物語の魅力は対立にあります。相反するものがぶつかり合う時に飛び散る火花に人は魅せられます。その対立は「敵と味方」「個人と組織」「伝統と革新」など様々ですが、人がもっとも魅せられるのは、「生と死」です。信と王騎の関係はまさにこれに当たります。  大将軍を目指して生きる信と、大将軍としての生涯を終える王騎。この二人の交流によって生まれる「遺言」や「遺産」という心の光を、キングダムの読者は主人公の視点を借りて追体験しています。だからこそ王騎将軍は読者にとっても魅力的な人物として映り、それが人気の理由になっているのです。「形見の矛」や「将軍の見る風景」はその象徴です。  人間は悩んでいる時に誰かの顔がぱっと浮かぶと、「自分はこうするんだ」という思いが強くなったり、飛躍的な成長を遂げたりします。キングダムではこの瞬間が度々描写されています。信は強敵を心の強さで撃破するのですが、その時に王騎将軍が信の背後に浮かんでいます。これは心の強さが「勇気」や「自信」といった単なる観念ではなく、人物の影響によるものだということを的確に描写しています。  ただ、こうした「自分が誰に影響を受けているのか?」という心の世界は軽視されがちです。そして、その分だけ「こうすればうまくいく」という理屈ばかり重視されています。物語というのはただ楽しむだけでも気晴らしになって良いのですが、こうした心の世界の仕組みを知った上で読むと、現実での悩みを解消するヒントになってくれることがあります。もし興味を持ったなら、信と王騎将軍の関係に着目しながらキングダムをぜひ読んでみてください。 佐々木
コーチャー。自己啓発とビジネスを結びつける階層性コーチングを提唱。カイロプラクティック治療院のオーナー、中古車販売店の専務、障害者スポーツ「ボッチャ」の事務局長、心臓外科の部長など、さまざまな業種にクライアントを持つ。現在はコーチング業の傍ら、オンラインサロンを運営中。ブログ「星を辿る」。著書『人生を変えるマインドレコーディング』(扶桑社)が発売中

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