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できる限りの対策をして、稽古を続ける日々/鴻上尚史『ハルシオン・デイズ2020年版』

できる限りの対策をして、稽古を続ける日々

 僕は、10月31日から、紀伊國屋ホールで『ハルシオン・デイズ2020』という作品をやります。  16年前に初演、2011年にはロンドンでイギリス人キャストで再演した作品を、コロナの時代設定に書き換えて上演します。  前売りの先行発売が始まったのですが、これが驚くほどチケットが動きません。  今の所、演劇人生史上最低の記録です。

どこまでの観客が感染したのか

 でも、無理もないかなとも思います。  ツイッターでファンの人から、「鴻上さん、『ハルシオン・デイズ2020』を見に行きたいと親に言ったら、家族会議が開かれました」という文章をもらいました。  家には高齢者もいるのに、お前は芝居を見に行くのか、と問いつめられたというのです。  7月に新宿の劇場でクラスターが発生したことが決定的なイメージになっていると感じます。  あの時、僕は観客の感染状況を正確に知りたいと熱望しました。  楽屋口で出待ちをして、ハグしたり握手した観客がいました。物販で密になり、買い物をした観客がいました。そして、黙ってマスクをしたまま、客席の後ろで見ていた観客がいました。  どこまでの観客が感染したのかが、ライブ業界に取っては死活問題だと思ったからです。けれど、結局、正確には分からず終いでした。  このクラスター以降、いくつかの劇団や研究機関が「俳優と観客が出す飛沫の拡散データ」を計測しました。かなり科学的に検証され、いろいろと分かってきました。科学的に防御できることはなんでもやろうと劇場は対策を打ち出しました。  そんなわけで、できることはすべてやりながら、粛々と稽古を続けています。劇場で、あなたと会えたらいいなと思っています。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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