更新日:2022年03月10日 15:05
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ロシアによる、人類史上初の運転中の原子力発電所への軍事攻撃は何を意味するか?

原子力平和利用の大前提が崩れた

 原子力の平和利用は、軍事非転用と軍事攻撃を受けないことが絶対条件です。これまでは、まだ操業開始してなかった(完成前だった)、軍事用だったなどと釈明出来ましたが、ザポロジエ原子力発電所は、民間所有の商用原子力発電所です。  IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、2020/03/04に原子力安全と防護の7つの柱を表明しました*。 <*IAEA Director General Grossi’s Initiative to Travel to Ukraine 2022/03/04 IAEA> 1) 原子炉、核燃料プール、放射性廃棄物貯蔵所など、施設の物理的な完全性が維持されなければならない 2) すべての安全・保安システムと設備が常に完全に機能していなければならない 3) 運営スタッフは、安全およびセキュリティの義務を果たすことができ、不当な圧力から解放された意思決定を行う能力を有していなければならない 4) すべての原子力発電所に対して、送電網から安全なオフサイト電力(外部電力)が供給されなければならない 5) サイトへの、またサイトからの中断のない物流サプライチェーンと輸送がなければならない 6) 現場及び敷地外の効果的な放射線監視システム、緊急事態への備えと対応策がなければならない 7)規制当局などとの信頼できるコミュニケーションがあること  これら7つの柱は、原子力安全、防護の基本中の基本で常識なのですが、これを敢えてIAEA事務局長が表明する事態になり、ロシア軍によって破綻してしまいました。  人類は、たがが外れた状態と言えて第二第三の原子力発電所攻撃は否定出来なくなりました。これは商用原子力利用への重大な脅威です。 「ジュネーブ条約があるから原発は攻撃されない」と豪語し、異論を嘲笑する人々がいましたが、「人が作ったルールは人によって破られる」典型が生じたわけです。  また原子炉を攻撃しても本体は大丈夫と豪語する人が相変わらず居ますが、大型軽水炉には、自律安全性(受動安全性)に弱点があり*、炉心から遠くで生じた取るに足らないトラブルが、人間による適切な対応がなければ短時間で炉心溶融に至る可能性が無視出来ないことはWASH-1400(ラスムッセン報告)で指摘され、ブラウンズフェリー1号炉火災(BF-1 Fire)で現実となる寸前にいたり、スリーマイル島2号炉炉心溶融事故(TMI-2)で実現しています。その後も大小の事故は生じており、福島核災害で決定的となっています。 <*受動安全性を大幅に強化したものが第三世代+炉であるが、フランスのEPR(欧州加圧水型炉)では、建設費が高騰しており経済性が著しく損なわれてしまった。ロシアや中国で実証中である>  ザポロジエ原子力発電所へのロシア軍による攻撃では、攻撃下にある制御室の映像が報道されており、「直ちに立ち退きなさい」「直ちに原子力施設への攻撃を止めなさい」「重要施設を壊すのか」「被害復旧を邪魔しないで」「君たちは、全世界の安全を脅かしている」などの職員の構内放送での呼びかけが無視されている事がわかります*。これはニューヨーク・タイムズによって映像と文字おこしが公開されています**。 <*Urgent Message Heard On PA System At Nuclear Power Plant During Attack: “Stop Shooting Immediately! You Threaten The Security Of The Whole World” 2022/03/04 21:00(ET)〜 CNN AC 360 Degrees Transcripts> <**Live Updates: Putin Threatens to Strip Ukraine of Statehood, as Russian Advance Slows 2022/03/04 The New York Times>  本記事執筆時点(2022/03/05)でロシア軍は、南ウクライナ原子力発電所(VVER-1000 4基)まで20マイル(32km)まで接近しており、更なる原子力施設への攻撃が強く懸念されています。またロシア軍支配下にあるチェルノブイル原子力発電所でも労働者の行動・通信の自由が侵され管理状態が大きく劣化しています。  原子力施設への攻撃は、人類への犯罪と言えます。この様な国家テロールは断じて許されるものではなく、ロシア政府は直ちにかかる行為を止めて原状回復する義務を人類に対して持ちます。  また我々は、独裁者というものは有能に見えても破滅的な行動に及ぶという事を何度でも学び取る義務があります。これは中国において多くの皇帝が繰り返してきたことであり、本邦においても豊臣秀吉など歴史上の人物が具体例を残しています。 <文/牧田寛>
まきた ひろし●Twitter ID:@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?

急速な感染拡大。医療崩壊。
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