更新日:2022年03月10日 15:05
ニュース

ロシアによる、人類史上初の運転中の原子力発電所への軍事攻撃は何を意味するか?

銃を突きつけられて操業中

 ザポロジエ原子力発電所は、ロシア軍による攻撃を受けて建屋の一部(訓練棟とされる)が炎上しましたが、原子炉本体への影響は幸いにして無く、火災も鎮火したとのことです。発電所はロシア軍の制圧下にありますが、運転管理は発電会社によって行われており、ウクライナ人の労働者が銃口を突きつけられながらも操業を続けていると報じられています(CNN New DAY 2022/03/04)。  運転を素人が強制的に止めれば最悪の核ジャックとなり、最悪の場合原子炉が炉心溶融後に原子炉建屋が爆発・崩壊することもあり得ます。ウクライナの電力会社職員に操業を継続させるという事は、当面、最悪の事態は回避されたと言えます。  ロシアにとって、商用原子炉は戦略輸出商品*であり、採用例も順調に伸びていることから、原子炉を破壊することや攻撃することは本来あり得ないことです。しかし国際法・条約に違反して攻撃はなされました。一方、銃で脅しながらであっても操業は継続され、送電線からの遮断も行われていないという事ですので核テロールを行うほどイカれていないようです。 <*ロシアや中国は、原子炉の建設だけでなく職員養成、核燃料供給、核燃料サイクル、運転管理などのパッケージ販売をしており更に借款も含めているために超大型の金融商品でもある。このため日本勢などは特にロシアに対して苦戦してきた>  既に中身は全く異なるものになっていますが、最新のVVER-1000シリーズは特に手頃な大きさの原子炉としてインドなどで採用され、操業が始まっています。もしもウクライナの原子力発電所を破壊すれば、ロシアにとっても商業上重大な信用問題となります。

何が目的なのか?

 商用原子力発電所への攻撃は、それにより原子力過酷事故・核災害に直結することとなり、最悪の場合、ウクライナだけでなくロシア、トルコほか欧州・中東・旧ソ連邦全域に甚大な打撃を与えかねない暴挙です。  大袈裟に言えばDoomsday Device(皆殺し装置)にもなりかねない危険をはらんでいます。仮に国家指導部、この場合はプーチン氏にその気がなくても現地指揮官、現地将兵がおかしな考えを持てば商用原子力発電所は皆殺し装置になり得ます。そうであるからこそ、商用原子力発電所・発電施設はジュネーブ条約で攻撃が禁止されており、ロシアも条約批准国です。  では何故攻撃したのか?少なくとも理由は幾つか考えられます。 1)ドニエプル川の制圧  ドニエプル川はロシアからベラルーシ、ウクライナを経て黒海に流れる大河です。河口部はダムで阻害されていますが、ウクライナの首都キエフまでの水上交通が可能となります。 2)電力の遮断  ザポロジエ原子力発電所は総容量ではウクライナの20%を占める大電源です。これを送電網から遮断すればウクライナを混乱させられます。但し、現在運転中は4号炉のみですし、送電網から原子力発電所を遮断すると受電も出来なくなり、外部電源喪失という極めて危険なことになります。現実には送電は継続しているとのことです。 3)核物質の制圧  ザポロジエ原子力発電所には使用済み核燃料が保管されています。商用軽水炉の使用済み核燃料から核兵器を作ることは困難ですが、そうであっても軽水炉級の核物質も厳重管理対象となります。制圧の動機となり得ます。 4)核恫喝(核テロール)  核施設を支配することは核恫喝に使えます。ロシアほどの大国がそのような真似をするとは考え難いのですが、既にロシアはベラルーシへの核搭載可能なイスカンデルミサイルを持ち込み、世界に向けて核恫喝を行っており、世界から抗議を集めています*。ロシアの国際的信用を地に堕とす行為です。 <*ロシアのウクライナ侵攻と「核の恫喝」に対する抗議声明2022/03/02長崎大学
次のページ
崩れ去った「原子力平和利用」の大前提
1
2
3
まきた ひろし●Twitter ID:@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

記事一覧へ
誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?

急速な感染拡大。医療崩壊。
科学者視点で徹底検証!

おすすめ記事
【関連キーワードから記事を探す】