第515回

6月15日「心がボロボロになってる人に」

・久しぶりに吐田進君と会ってきた。奥さんは娘さんを産んですぐ亡くなっていて、彼は以来ずっと一人で子育てをしている。

・吐田君には娘さん以外の家族や親類はいない。友達もいない。けれど彼のことを心配する人は多いと思う。吐田君はオタクだ。そしてひきこもりだ。無職だ。そんな状況で子供をさずかり、そんな状況でちゃんと育てている(ちゃんと育っている)。

・多くのオタクと同じように、彼は自分がもうずいぶん年老いていることに気づいていない。多くの大人と同じように、子供がもうずいぶん大きいこと、まもなく自分から離れていくことに、気づいていない。端からみている人は皆ハラハラしているけれど、なぜか彼のおかげでずいぶん癒されてもいる。僕もそうだ。

・そんな彼のことを書いた短編2本と中編1本をまとめて、今度、単行本にしてもらえることになった。
(『吐田家のレシピ』星海社/6月27日発売予定)

・オタクのままで大人になってしまった人、子供のままで親になってしまった人。それから心がボロボロになってる優しい人に。届きますように。
※収録作品のうち1本をネットで無料公開してますので、読んでみてください。 ↓

 『吐田家のレシピ サニーサイドアップ』

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。