第518回

7月8日「食っていけるかどうか」

・写真学校に入る若者の大半は、将来は写真家として身を立てる予定でいるようだ。しかしプロのフォトグラファーとして一生食っていける人はそのうち1%もいないだろう。しかし、それ以外にも人生はある。

・ちゃんとした写真学校なら、芸術写真の撮り方だけでなく、街の写真館やカメラ屋さんなどで働く際に役立つようなことも、きちんと教えてくれる。記念写真や証明写真をきちんと撮るスキルにも、一眼レフの使い方を店頭でわかりやすく説明できるスキルにも、価値がある。例えば50人並んだ記念写真を撮る時に一人でも顔が隠れていたら大問題になる。そういう仕事だって簡単なことではないのである。

・マンガや声優の学校が増えている。ゲーマーの学校も出来たそうだ。マンガ家や声優になれなかったとしても、プロゲーマーになれなかったとしても、そこで身につけた技術でなんとか食っていけるようには、してあげてほしいと思う。卒業してその仕事につける可能性が5割を切っているとしたらそれは学校ではなくサークルだ。そこでやっているのは勉強ではなく娯楽だ。

・専門学校や大学で単発やレギュラーで授業を受け持つ機会があるが、僕の場合は、生徒一人一人が将来「食えるようになる」ことが第一義だと思っている。そのための方策を提示したり、さらに時間があれば方法を教えたりするようにしている。

・マンガの実作を専攻する学生たちのための講演を頼まれたことがある。漫画誌でデビューできなくても今後はネットでファンをつけて収益を得る方法もある、ということ、そしてその具体的な事例を説明したのだが、どうも話が通じない。生徒の話を聞くと「いや僕は普通にプロとしてデビューしますから」「雑誌や単行本で稼ぎますから」と口を揃える。その自信の根拠は、入学する時に学校側から「うちの卒業生の7割がプロになっている」と言われたからだそうだ。

・本当かなと思って調べたら、その「プロになっている」ということは「担当編集者がついている」ことだった。出版社を紹介して、一度でも編集者に作品を見てもらえたら、もうプロ、ということらしい。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。