第59回

02年2月24日「デジタル少女のリアリティー」

・2月18日ぶんの日記からの続き。「美女ラボ」撮影本番だ。世田谷のハウススタジオの部屋を、蒼井さんのプライベート・ルームにできるだけ似せてセッティングした。

・カメラマンの松木さんはパソコンも使いこなす人で、意図をすごくよく理解してくださって助かった。ネットアイドルのポートレート……自分の部屋で自分一人で、カメラを自分に向けて撮り世界に発信するあの写真のリアリティーは、時代とメディアと少女達がたまたまシンクロして生まれているものだ。それをプロの手で狙って撮るという、とても難しい試み。

・まず、蒼井さんと、ノートパソコンでネットアイドルのページを見ながらいろいろな話をした。インターネットのこと。同世代の少女達のこと。そして、ネットアイドルという生き方について。

・それから、デジカメを一個、彼女に渡してしまった。「じゃ、後は自分で撮って」と。そして僕と松木さんはさっさと隣の部屋に移った。

・蒼井さんはリスのような顔でしばらくとまどっていたが、やがてカメラでいろいろなものを、そして自分を、撮り始める。ときどき照れくさそうに部屋の反対側の隅にいる僕や松木さんを見るが、僕たちはあえて無視して雑談をしている(どうでもいい話だが、松木さんと担当編集者の樋口さんと僕の3人は、徒歩数分圏内のご近所さんだということを知ったりして)。

・彼女がだんだん集中してくる。自分の姿を確認しながら撮ることができるデジタルカメラには、ある種の魔力があると僕は思う。彼女は歩き回ったり、窓を開けてみたり。床に座ったり、ソファに寝ころんでみたりしながら、撮る。撮る瞬間、フラッシュをたいてないのに表情が輝いているように見える。

・その頃になって、松木さんはすうっと立ち上がり、彼女に近付いた。しかしまだカメラを持っていない。彼女が撮りやすいように、そっと照明の具合や家具の配置を調整したりするだけ。

・それから1時間くらいが過ぎた頃。いつの間にか、僕も気付かなかったくらいのさりげなさで、松木さんもカメラを持っていた。そして、自分自身を撮り続ける彼女の姿を撮り始めていた。2種類のシャッター音が交錯する部屋は、とても不思議な雰囲気になっていく。解放された閉鎖空間というか。そこでごく自然な、彼女の表情。そういう状況が、ひきこもりつつ世界と接するネットアイドルのリアリティーに、繋がっていくかどうか。

・彼女は撮り続ける。松木さんも撮り続ける。そしてさらに1時間、経過。その瞬間を、僕は見ていた。彼女の瞳から突然ぼろぼろと、涙が流れ始めたのだ。僕は思わず立ち上がった。彼女がこっちを見た。夢を見ているような表情。窓から夕日が入り、部屋全体が、彼女が、彼女の涙が、金色に輝く。


02年2月25日「おつかれ様です」

・「美女ラボ」写真選びに、久しぶりにSPA!編集部を訪問(フジサンケイ村は地の果てにあるような気がしていたが大江戸線使えばうちの事務所から30分で行けるようになってた)。

・それからゲームコーナーの担当をしていたはるき氏が突然異動になったので(会社員としては出世コースというわけですね)、後任の大沢氏に引継ぎ紹介して頂いた。はるき氏はゲーム業界で人気急上昇中の名物編集者なので惜しい。

・最近、e定食のゲーム企画が注目されてることは、ネット上のゲーム系BBS等を見ていればよくわかる。これは氏のこだわりと努力によるところが大きいと思う。WebSPA!のゲームコーナーを今のこの形に仕上げたのも彼である。いなくなる人を褒めても何のメリットもないのでこのへんにしといて、大沢さんや他のスタッフの皆さんにはこの成果を受け継ぎ、さらに充実させて頂きたく期待します。ただ、はるき氏はここ(WebSPA!)で密かにゲームの評論とか続けたらどうでしょう。

2004.06.14 |  第51回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。