第61回

02年3月12日「アートとビジネス」

昨日に引き続き青山テピア。他のノミネート委員の方々とプレミア・プロジェクトについて語る公開セッションに参加した。司会は武邑光裕さん、 パネリストは稲蔭正彦さん、仙頭武則さん、八谷和彦さんと、僕。個人クリエーターの活動をどう産業に繋げていくか、というのがプロジェクトのテーマだ。
しかし「個人を国が支援すること」「文化活動を商業活動にしようとすること」「作家性でお金儲けをしようとすること」……いずれにも、大きな矛盾があるわけで、現場でクリエーター(というよりアーティスト)の方々とつきあいながら予算を管理し、ビジネススキームをつくっていく作業に他の委員の皆さんも非常に苦しんでおられたようだ。

ただ、仕上がってきた作品群を見ていると突破口が見えたような気がする。例えば仙頭さん担当の『虫が演じるシェークスピア』(セッション中にも一部分の映像が流されて非常に受けていた)は、虫好きのスタッフが楽しみながら寝食忘れて作り込んでいるうちに、当初は数分の試作版を作るつもりが結局30分くらいのものが出来上がってしまったという。それが各所で評判になって、もうテレビ局には売れてしまったそうだ。
30分もあればテレビでひと枠取れる=商品として成立するわけである。仕事として受け予算枠の中でやる、というスタイルではなく、好きで作っているうちにそれが商品になってしまいました、というスタイルこそが今後重要になっていくのでは、というような話。このあたりに、ブロードバンド時代のコンテンツ不足を一気に解消する方法論があるのではないか。今までアートとビジネスの境界線はとても漠然としていたが、それがこれから1~2年のうちに、ネット上で明確になると思う。コンテンツをタダで公開することもできるが、お金とって提供することもできるようになっていく。そこから始まる変化が重要である。話が尽きず、ポストペットの八谷さん、映画プロデューサーの仙頭さんとは同様のテーマで、もう一回ずつ公開トークをすることになった。

02年3月13日「遂に本格始動」

原作をやってるマンガ作品『アトランシティー』のテレビアニメ化について、キャラデザの岡崎武士氏、監督の須貝克俊氏と3人揃ってインタビューを受けた。詳細は掲載誌(今売りの「イッキ」@小学館)参照。ここまで来るのに3年、ここから先プロジェクトが完遂するまであと3年の予定。メディアミックスのプロジェクトは、長生きするつもりでないと、やってけませんね。ともあれこれで遂に公になり、本格始動である。もう逃げられませんね。岡崎さんも、須貝さんも、そして僕も。

02年3月15日「仙頭武則さんと」

映画プロデューサーの仙頭武則さんとトークショウ@デジタルコンテンツ協会主催のセミナー@大阪某ホテル。テーマは、新しいメディアに対応した新しいクリエイティブについて。ブロードバンド・ネットワークなど新しいインフラが急増しつつあるが、インフラが増えるということはただチャンネル数が増えるということではない。と、いうような話で盛り上がった。たとえば映画のプロデューサーとしては、ただ作品の売り先が増えて儲かる、ということではない。それぞれのメディア用にコンテンツの形も変えていくべきだ、と仙頭さん。同じ映画作品を上映用とDVD用で別々に仕上げる、ということを既に始めているそうだ。
例えば各シーンについて画角や尺を微妙に調整するとか。いっそ『ユリイカ』みたいな映画は劇場公開だけでパッケージ化はなし、というような極端な売り方をやって下さいよと提案してみた。そして、今後例えば配信の端末としてプレステ2やXboxが使われるようになったとしたら、それ用に仕上げられるものは映画というよりゲームのようなものになると思う。

2004.06.27 |  第61回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。