第63回

02年4月3日「サウンドノベル新展開」

・チュンソフトの発表会。『かまいたちの夜2 ~監獄島のわらべ唄~』(PS2対 応・7月18日発売予定)のゲーム画面がお披露目に。たえず動き続ける背景、シ ルエットのまま立体的に動くキャラクター等、映像もとても豪華になっている。

・サウンドノベルはコンテンツとして素材の物量が必要なジャンルだ。それが文章だけなら作家が死ぬほどがんばればなんとかなる。しかし映像や音声まで凝ろうとすると、その労力と予算はちょっと大変なことになるはずだ。その試みをSCEやコナミのような大企業ではなくチュンソフトというクリエーター集団が決行したのだ。

・それから、同時に発表されたチュンソフトのネットワーク戦略が興味深かった。『かまいたちの夜』等の作品を携帯電話(J-PHONE)やインターネットで課金配信するらしい。サウンドノベルという形式は配信サービスにぴったりだから、これまでに蓄積されたノウハウがさらに生かされていくだろう。インターネットではさらにフラッシュアニメ化されたマンガ作品を配信していくという。当初はフラッシュ先進国・韓国のコンテンツを翻訳して公開するらしいが、チュンソフトのことだから当然その先オリジナル作品にも期待できると思う。

・ゲームというステージを得て、小説も、映画も変わりつつある。その先にある新しい何かが、ネットワーク時代のキラーコンテンツになっていくはずだ。天才・中村ピカイチはそれに気付いているようだ。

02年4月9日「デジタルマンガにこだわる理由」

・「少年ジャンプ」で『デジタルマンガ賞』の募集が始まった(僕は審査員の立場でお手伝いしている)。パソコン、ゲーム機などの画面上で見る・楽しむための新しいスタイルのマンガ作品を対象とするものだ(詳細はジャンプ誌上かジャンプのウェッブ上で)。この領域では今同時多発的にいろいろな動きが始まっているが、遂に超メジャーも動き始めたわけだ。

・ブロードバンドやユビキタスという環境が成立することによる最大の変化は、テレビというものがコントローラーを手に持って見るものになっていくことだ。そうなると、映像も、ただ受け身ではなく手で操作して体験するものにもなりえる(音楽の世界ではコントローラーを操作しながら聞く音楽のジャンルが音ゲーという形で成立しているわけ)。そんな状況を前提にコントローラーで見せるドラマを、つまりゲーム機対応の小説や映画を作り込んでいくと、どれも、マンガに近いものになっていく。ここで、マンガの世界にすで蓄積された技法がすごく使えるということになる。日本の、マンガからアニメに至る歴史とノウハウの蓄積が今後、配信コンテンツをはじめとした新しいデジタルの世界に生きてくるわけだ。僕がデジタルマンガという形式に大きな可能性を感じるのは、そういう理由です。

02年4月10日「TVゲーム学、今年も開講」

・早稲田大(大学院)での授業が始まった。「TVゲーム学」という基本線は変わらないが、今年は配信用コンテンツの特性について掘り下げてみようと思っている。

・大学院の授業は生徒全員がとても真剣で、その緊張感はとてもいい。だらだらしてる奴は、いない。学部生と違って自分の時間やお金を費やしてきている、つまり大きなリスクを負って来ているという自覚しているからだと思う。そして学生でありつつ業界にとても近いという意識を持っているのだ。わずか数年後には同業者となる人達なわけだから、僕の方だって真剣だ。。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。