第98回

02年12月17日「人骨の正体」

・前回の話の続き。結論を言うと、やはりここは病院、それも、歯医者さんの跡だった。

・歯を抜いた時、下の歯だったら窓から屋根に向けて投げ、上の歯なら床下に放り込むおまじないがある(知らない人はおじいさんかおばあさんに聞いてみて下さい)。ここで歯を抜いてもらった患者さんたちがそうやって投げた歯が屋根裏と床下にたまっていた。それが、白いかけらの正体だったようだ。

・病院を営業していた場所ということは、清潔で、水回りもいいということになる。これは、オタクーロン城化しつつある中野ブロードウェイの中にあってはとても重要なことである。しかし僕らは病院をやるつもりはないので、改装しようということになった。

・それにしても、あまりにも謎な作りだ。天井や床だけでなく壁も2重に作られていて、不自然な凹凸がある。昔の図面と比べると、ある一角には2メートルほどの、そこに人が暮らせるくらいの隙間まであるということがわかった

02年12月18日「ファミリースケルトン」

・というわけで「まんだらけ」各店舗を手がけたという、中野ブロードウェイに詳しい内装屋さんに来てもらった。無意味な壁を全部ひっぺがしたらすごく広く使えるはずですよね。軽い気持ちでそう尋ねたら、非常に驚かれてしまった。

・「ブロードウェイは約40年前に建てられ、以来、多くの人々が思い思いの暮らしを続け、それぞれの秘密を隠したまま、死んでいきました」「壁の裏についても、てんで勝手に配線、配管を行ったり、あるいはそのスペースをいろいろなものを秘かに収納することに使ったという話も聞きます」「もちろん、封印を開けるのは、自由です。ただ、何が出てきても、何が起こっても、当方は関知できません」 ……とのことである。やれやれ虫歯なんて序の口だったのだ。

02年12月31日「バーチャルとリアルの接点」

・中野ブロードウェイ。改装は快調。結局、仲間のマンガ家AさんFさんと一緒に、ここで年越しである。

・ここは信頼できるデジタルクリエーター仲間と一緒に、極秘アジトとして活用していくつもりだ。中野ブロードウェイはある意味で素晴らしくクリエイティブな場所である。それだけでなく、形のない商品を作っている人間にとっては、こういうバーチャルとリアルの接点のような場所が必要だと考えたのである。

・クリエーターの活動拠点は今ならもちろんネット上のホームページに置くのがベストだが、そのアンテナショップとして、現実空間にこういう「場」を持つことが重要だと考える。つまり全国のお客さんの側から見れば、実際に気楽にアクセスできるホームページの方が「リアル」で、実在しても滅多に行くことのできない中野ブロードウェイの方が「バーチャル」ということになる。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。