第122回

03年6月25日「話題のあの会社を取材」

・前回『アヴァロンの鍵』のことを書いたが、コンテンツを売る立場の人間は、今後何を無料で提供して何で課金するかということをよーく考えなくてはならない。というわけでオンラインゲームの「ハンゲーム」という会社を取材してみた。

・ここが運営しているゲームコミュニティー(http://www.hangame.co.jp)は韓国で2300万人(全人口の5割!)、日本でも250万人の会員を獲得している。なぜこんな数字を達成できているかというと、タダだからである。数多くのミニゲームを全て無料で提供しているのだ。ふらりと立ち寄ったインターネットカフェで、あるいは仕事の合間にオフィスで、アクセスして、本当に気楽に入会してしまえるのである。

・でもタダじゃ儲からないじゃん、という疑問はごもっとも。ここは課金の方法がユニークなのだ。プレイヤーの分身として画面上に登場するキャラクター(アバター)のための服やアイテムを、売っているのである。

・つまりゲームや、ゲームのプレイ時間を買うのではない。それをプレイする自分の「おしゃれ」だけを買うということになる。デフォルトのキャラクターはみすぼらしい体操服を着ていて、このままでも同じように遊べる。しかし、プレイ中、他の参加者とはしばしばコミュニケーションする。お互いのキャラを見せあったり、時には自己紹介してチャットしたりすることになる。この時、みすぼらしい姿をしてるとなんだか恥ずかしい。それで、つい服を買う。さらにはアクセサリーで自分なりのおしゃれをしたり、顔を整形してみたりする。と、結構なお金をつぎ込むことになるらしい。

03年6月26日「欲しい! 1/1000渋谷」

・渋谷をふらついていたら東急文化会館が閉館イベントをやっていた。これをもって取り壊しになる。会館が1956年というからさすがに仕方ないが、この場所には僕も思い入れがある。パンテオンの先行オールナイトはよく行ってたし、初めてのサイン会は三省堂コミックステーションでやった。ファンタスティック映画祭もよく通った。プロデューサーが毎回理由もなく泣いていたなあ。大正時代には「大正テレビ寄席」というのをここの地下で毎週やってたっけ(牧伸二が「バーゲンだよー」と叫んでいたアレだ)。

・屋上の五島プラネタリウムの特別スクリーニングを観た。星の光の歴史と渋谷の街の歴史とをオーバーラップさせながら見せていく、なかなか凝った演出だった。と、ここに情報を書いてももう二度と見ることはできないわけだが。でも、街の中のコンテンツにはそういうはかなさがあってもいい。

・さて、いちばん感動したのは、会場隅に展示されていた超精密な「1/1000渋谷」模型。全ての建物のテキスチャーにちゃんと写真を貼り付けてある。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。