第121回

03年6月22日「もう萌えてる場合ではない」

・『バトル・ロワイアル�U』試写会。舞台挨拶に深作健太監督とメインキャスト一同が揃った豪華なイベントだった。関係ない話だが僕の隣席が仲野シゲルさんで微妙に緊張した。

・今回も中学生42人の死闘。今度は戦争だ。ゆえに日常性からは離れている。例えば少年少女はもう制服を来たまま戦ったりしない。戦闘服なのである。

・そのかわりに、9.11以降の世界情勢をオーヴァーラップさせることによってリアリティーを現出している。藤原竜也演じる七原秋也は、東京の高層ビルを爆破したテロリストになっている。そしてアメリカ側ではなく、テロリストの側に「正義」を置いて物語は進む。メジャーのエンターテインメントでこんなことができるのは日本の映画だけ、いや今の深作組だけだろう。ハリウッド、ざまあみろ。

・しかし七原の決めの言葉が「メリー・クリスマス」とはどういうことだろう。ここだけはギャグと信じたい。

03年6月23日「セガの社長プロジェクト」

・トレーディングカードを筐体に読み込ませて対戦プレイする『アヴァロンの鍵』(セガ/ヒットメーカー)のロケテストが、セガ直営の一部店舗で始まっている。ゲームはすごくわかりやすいので、カードゲーム未体験者でも、すぐハマれるはずだ。

・トレーディングカードの楽しみをこのゲームで知る人も多いと思う。カードは1プレイで1枚もらえるわけだが、ゲーム終了後、黒い袋がマシンから出てくる瞬間の楽しさはなかなかである。

・アーケードがひどい不景気なのは、気持ちに余裕のない時代、カセットやディスクが手元に残らない、つまり形のない楽しみに誰もがなかなかお金を払いにくいからだと思う。ところがこれはゲームプレイに対してというよりカードにお金を払っている感覚がある。

・2次的な価値が価値そのものを代理的に象徴していくというか。ぺらぺらの紙でも1枚10万とか20万の価値を持ち得るトレカの価値観をバーチャルな世界にうまく持ち込んでいるわけだ。

・ネット配信時代のビジネスモデルとして、他のメディアにも使える手法かも。アニメはタダで見せるけど、そのキャラクターのフィギュアは高額で売る、とかね。

03年6月24日「一人100台買っとこう」

・ファミコン20周年についての思いを毎日新聞に書いた。7月1日夕刊に掲載予定。

・製造中止について、今だにX-boxよりは売れているのにという某誌記事には笑ったが、実際に遊んでるマニアからは惜しむ声はあまり聞かれない。9月までは買えるんだし、ファミコンはほとんど故障しないから修理サービス終了についての不安もあまりない。どうしても心配だったら複数台数買ってもたいした額にはならないのだ。

・それでも……という向きはいっそ製品を作って、発売してしまうというのはどうだろう。製造を諦めた理由についた部品がもうない、という理由を任天堂は挙げているが、デジタルのツールなのだから、別の部品で代用できるはずだ。

・そしてハードウェアの、システムとしての権利は15年で切れる。名前や形態を変えるなどいくつかの留意点をクリアすれば、今はファミコンのコンパチ機は合法的にできるはずなのである。製造中止後なら、任天堂も大歓迎してくれるのではないだろうか。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。