第127回

03年7月30日「SIMULATION・ONEを略しS1M0NEと綴る」

・『シモーヌ』試写。アル・パチーノ演じる映画監督が、CGで創り上げた「完璧な女優」を使って製作した映画が大ヒットしてしまうという話。設定的には女優というより特殊メイクないし「お面」なのだが。彼女を熱狂的に追い回そうとするファンやマスコミと、その秘密を隠し通そうとする監督の攻防を、コミカルに描く。

・バーチャルアイドル先進国の日本では90年代すでにこれとそっくりな小説も出ているが、どちらもモチーフに「ピグマリオン伝説」を使っているシンクロニシティーに少し感動した。

・ところでハリウッドの俳優協会は今、CG俳優の利用に激しく抵抗している。そういう事情を前提に見るとさらに面白いと思う。

03年8月8日「現場の視点をそのままパッケージする」

・八谷和彦さんの自主制作DVD『オープンスカイ』を拝見。この人の活動は当欄でも何度か紹介してきたが、今はナウシカに登場するあの小型飛行機「メーヴェ」の実機を製作してるそうだ。DVDには、1/2サイズまでの試作機のテスト飛行の様子を追った映像がまとめられている。機体搭載カメラによる空撮もあり。音も映像もあえてほとんどいじられておらず、それがとても気持ちいい。

・ユニークな活動をやってる人はその記録映像をウェッブで公開するのも良いが、DVDにしてどんどん売り出しちゃうというのも手だと思う。映画やCGの作品でなくても、あるいは八谷さんほど突出したテーマでなくても、手料理のメイキングでも隠し芸の披露でもいいじゃないすか。オーサリングはパソコン上で行った上で仕上げだけ専門業者に頼めば良い。プレスも、今は数百枚単位で受けてくれるところも多い。単価は同人誌作るより安上がりかもしれない。

・ちなみに『オープンスカイ』は青山ブックセンターやネットではhttp://www.artcocoon.comのカタログページで買える。今後、インディーズの映像作品については、多くの人々がどんどん作ってコンテンツ数が増えるほど、販路も増えていくはずだ。それでマーケットは拡大していく。ライバルが増えるほど自分の収益も上がっていくのである。

03年8月15日「ブロードバンドを流れるもの」

・「ブロードバンドコンテンツのブレークスルー技術等開発支援事業」公募プロジェクト(http://www.dcaj.org/kouboix/)の審査をお手伝いしている。優秀なブロードバンド事業計画に対して経済産業省から補助金が出るのだ。

・まずは審査員それぞれで全応募案件の書類に目を通し、評価していく作業。夏休みを潰してこれを延々とやり続けている。どんなに急いで読んでも数十時間はかかる分量だが、新技術に絡んだ企画が多いためネットで調査・勉強しながら進めているととんでもないことになってきた(他の審査員の方々も相当苦しんでおられると聞いてなんか楽になったが)。

・しかし斬新なプロジェクトがここでたくさん成立しそうなので、成果の報告を期待して下さい。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。