第144回

03年12月9日「20年ひとむかし」

・東京都写真美術館のファミコン20周年記念特別企画「レベルX」(~2004年2月8日)。ファミコンをはじめ任天堂系タイトルをメインにした展示で、ソフトの一部は実際にプレイできるようになっている(こういうことを可能にするための権利処理は大変なのだ……関係者は裏で相当苦労されたと思う)。

・各ゲームクリエーターの仕事を展示しているコーナーもあり、田尻智さんの『ポケットモンスター』の企画書が特に興味深かった。冒頭は「近未来ストーリー」として、このゲームが発売された直後の子供達の日常を描写する文章からはじまっている。それが小説としても楽しめるレベルのものなのである。

・会場は10代、20代の若い人が多かった。ファミコン全盛期のあの面白い時代の雰囲気を伝えるのはなかなか難しいかもしれないけど、それは文学や映画の素材としてもありかもなあと感じた。僕は1983年に住んでいたぼろアパートの部屋を借りっぱなしにしていて、内装も散乱しているゲームやレコードもそのままで置いてある。たまにここに帰るといきなりタイムスリップ感覚である。

03年12月10日「異文化コミュニケーション」

・アルケミスト社訪問。名作美少女ゲームの家庭用ゲーム機(ドリキャス、プレステ2)移植を積極的に進めて急成長しているメーカー。こないだ『Wind』のことを書いたら声をかけてもらったので、現場に押しかけたわけである。

・社長の浦野さんはもともとゲームの流通業界の人だそうだが、このジャンルの持つ潜在力に注目してメーカーをおこし、以来インデペンデント系のソフトハウスやクリエーターを回って優良タイトルをサポートしている。非常にマニアックな天才クリエーターとも、流通のおやじさんとも、同時に付き合っていく仕事だ。インディーズとメジャーの間をつなぐ、こういう努力がとても重要だと思う。浦野社長はそれを「異文化コミュニケーション」の仕事と言っていた。

・それから浦野さんの話で興味深かったのは、美少女ゲームにおける「何も起こらない時間の重要性」である。そこに新しい文体、そして文学が生まれつつあるという意見に賛成。例えばマンガはそのノウハウを吸収しつつある。

03年12月11日「バイオ認証のすすめ」

・銀行通帳の印影表示を廃止する動きが広まっている。ていうか「印鑑」ってすでに実効性ないでしょう? 偽造なんてもう超簡単だし。

・なぜあれをやめちゃわないかというと、はんこが無意味だということを公式にアナウンスしてしまうと、これまでのあらゆる公式文書や証明書や契約書が一気に無効になってしまうことになる。それで起きる混乱に対処できないからだという。

・結局、手書きサインや暗証など新しい証明方法を提示しつつじわじわと切り替えていかなくてはならないわけだ。が、これがまたいろんな利権が絡んでいてなかなか前に進められないんだそうだ。でもさ、こういうことをきちんと処理するために権力機能があるはずだ。

・僕の場合、いざという場合に備えてのバイオ認証を実行している。押印の際、自分の血液を使って作ってもらった特製の朱肉を使っている。DNAは決して偽造できないのだ。そういえばクリントンの不倫を証明したのは究極のバイオサイン……モニカ嬢の衣服に付着した精子……でしたね。まあ契約書とか婚姻届にいちいち精子ぶっかけるわけにはいかんだろうが。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。