第182回

9月26日「クリエーター社長のスタンス」

・CGクリエーターの富岡聡氏と会う。最近チームを法人化されたそうで、ゲームのムービーシーンやTV番組のジングル等、受注作品でも良い仕事をされている。どれもクライアントのニーズに応えつつ、ちゃんと「富岡作品」として仕上げてるところが凄い。

・そうやって収益を上げつつ自分のオリジナル企画も休まずに進めているらしい。この姿勢は見習うべきである。機材環境の変化で、個人で活動している作家がそのスタンスのままで(大企業に吸収されずに)大きな仕事を受けられるようになったことは良いことだ。が、請負仕事に忙殺されてしまうと、どうしても自分の作品を創る時間がなくなってしまう。

・つまり現状、日本のCG作家は自分のオリジナル作品を1本しか持っていない、という例が多いのである。若い頃に気合いを入れて1本は作る。が、その1本で売り込みに成功しプロになることができた人の場合、以降はもう仕事で忙しくて個人的な作業をやめてしまう。あるいはその1本が認められなくてプロになれなかった人は、CG制作そのものをやめてしまう。

・しかし才能をお金に換えるには、それを自覚し、コントロールすることが重要なのである。そのためには、2作目、3作目を作ることが重要なのだ。ただしこれは、本当はクリエーター側の責任ではないのかもしれない。オリジナル作品でもちゃんとお金が稼げる状況作りこそが急務なのだ。

・さて富岡さんの場合、PVとして、つまりミュージシャンとのジョイントによってうまく自分の世界観をメジャー化している。この戦略も正しいと思う。PSPのようなマシンで音楽も聴くようになった時、音楽にとっての映像の必要性がさらに大きくなるはずだ。課金コンテンツの場合は特に。

9月27日「インディーズにこだわるべき領域」

・東京国際CG映像祭で「インディーズ」枠も設けることになった。ショートムービーの上映と、その解説を兼ねたパネルディスカッションを予定している(10/30 於・六本木ヒルズ・タワーホール)。今年はかなり急な話で各方面に迷惑をかけてしまっているが、なんとか良い形に成立させて、来年以降につなげていきたいと思う。クリエーターの皆さん、なにとぞよろしくお願いします。

・アマチュア、ではなくインディーズ、だ……念のため。「アマチュア/プロ」だと上下関係として語られてしまいがちだが、「インディーズ/メジャー」というのは拮抗関係で語られるものだ。音楽業界を見てると良くわかる。「あえてインディーズで続けている」とか、「ある種の作品に限りインディーズのスタンスで出す」みたいなこと、よくあるでしょう? 

・これは80年代~90年代にレコード流通が多様化してインディーズでもちゃんと商売ができるようになった結果だ。CG業界も、こういう構造になっていくべきだと思う。インディーズにこだわるのは、特に日本の場合、ここでしかできない技術の熟成があると思うからだ。漫画がトキワ荘はじめ全国の四畳半で熟成していったように(日本の漫画はミリオンセラーも含めほとんど全てがインディーズだと僕は思う)。

・個人のこだわりを時間や予算よりも優先することによって新しいものは生まれていく。例を挙げると、3Dのキャラクターの動きについては、インディーズ作品の方が面白いものが多いような気がしている。

・ゲームメーカーは大手ならたいてい社内にモーションキャプチャーのスタジオを設置していて、何かといえばデータを取る。プロの仕事は、そのデータをどんどんキャラクターにつけていく作業になりがちである。個人作家の場合、モーキャプ作業を十分にはできない。限られたデータをいじくって新しい動きを作っていかなくてはならない。だから現実データの取り込みではなくその先、動きの修正作業にものすごく時間をかける人が多いのだ。強調したり、省略したり。そういう努力をとことん行なうことによって、現実空間にはない、CGならではの動きが生まれていく。

・もちろん、大企業の制作工程において、そういう、見えにくい作業に時間や予算を割り振ることはなかなか難しいということはわかっている。だから今、メジャーにインディーズ力が必要だと思うのだ。

9月28日「映画はどうだろう」

・『あゝ! 一軒家プロレス』試写。ブロック・ブッキング・システムつまりコンテンツの流通権益を一部の大手が押さえている状況に対してどう切り込んで行くか、ということが映画業界におけるインディーズの命題だ。80年代以降、単館ロードショウやVシネマなど様々なやり方が成立したが、独自に劇場をネットワークしていくスタイルも今後はありだろう。

・とっとと作ってしまってから、上映館をCMで募集してしまう、という荒技に出たのがこの『一軒家プロレス』である。おかげで知名度が先行した。まずは新宿シネマミラノでの公開(12/4~)が決まったそうだ。

・内容はというと、一軒家は冒頭の10分で完全崩壊する。そこから先は延々と「なんじゃこりゃ」な展開が続く。ストーリーは、ないに等しい。このモンド感はカルト化のパワーを秘めていると思う。だからDVD発売してしまったりせずに、あちこちで延々と上映を続けて欲しい。

・インディーズの映画については、映画館にこだわらず多目的ホール等にDLP(デジタ映写機)を持ち込むという手もあるはずだ。最近、キャパ数百人の中ホールはどの都市にもたくさんある。立派だけどあまり使われていないものも多いと聞く。そういうところにDLPを設置すれば、デジタルで仕上げられたものであれば(最近はそちらの方が多いはずだ)映像的には既存の劇場に近い環境で上映できるのである。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。