渡辺浩弐の日々是コージ中
第184回
10月7日「携帯ゲーム機戦争は幻想か」
・前回の続き。ニンテンドーDSは、持ってみると結構でかい。折り畳んでも、ポケットには入らない。でもこれでいいのだ。屋外で遊ぶことってあんまりないだろうし。むしろほとんど自分の部屋で遊ぶのだろうし。
・そもそも、ゲームボーイ(GB/GBA)だって、携帯用では、なかったのではないか。個人用であったことが重要なのだったと思う。特にメイン層の低年齢ユーザーにとって、あれは自分専用ゲーム機として、そればかりか自分専用モニターとして唯一のものであるケースが多いのである。
・2画面式、タッチスクリーン操作など新フィーチャーを搭載してあの大きさにしたということは、ケータイ機のフリをして据え置き機を出して、今後はこれでプレステ2の牙城を浸食しようという戦略と見る。
・ワイヤレスの機能については、店頭でサンプルゲームをダウンロードさせたり、あるいは、劇場の客席で映画を見ている間に手元のDSにキャラクターデータをダウンロードさせたり、といった計画も打ち出している。ゲームの配信ビジネスも、今の延長には成立しないという判断が任天堂にはあったのかもしれない。それがこのマシンを使えば、すぐにでも、非常に具体的で実効的な企画が可能になるのである。そういう意味でも、DSのライバルはプレステ2になっていくはずなのだ。
・逆に言えば、ウォークマンの延長線上の席はいまだに空いているのかもしれない。PSPはここを狙っていくべきだ。
10月8日「人前でやるのは恥ずかしい」
・ニンテンドーDSの発表会で頂いた『まわるメイドインマリオ』(GBA対応)をプレイ。カセットに回転センサーが内蔵されていて、GBA本体ごと回して遊ぶアレですね。超快感。すごいのは、振動機能とシンクロすることによって、個々の超ミニゲームごとに別の手触りを錯覚してしまうところだ。ごろごろ転がしたり、ごしごし拭ったり、ぶるぶる振ったり。
・先に紹介した『さわるメイドインワリオ』と併せてみると、任天堂の主張がびんびん伝わってくる。このシリーズは、脳に直接クる、生理的な体験を載せるエンジンとして今後の任天堂の戦略にとって重要な資産になっていきそうだ。
10月9日「FFを大スクリーンで」
・境真良氏ほか東京国際映画祭スタッフの方々と、スクウェア・エニックス社へ。『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』の最新バージョンを拝見する。特に各キャラクターの造形や身のこなしには徹底的にこだわって作られているようで、それだけでもファンなら悶絶ものである。
・境さんのチームにはDLP上映のノウハウを持っている人も多く、既存の大型劇場をデジタル上映館に変身させる試みがかなりスムーズに進みそうである。これは重要な先例になるかもしれない。デジタル業界で生まれ、デジタル力で仕上げられたデジタル映画。これをフィルムに焼かずに、最高の環境でそのままデジタル上映……という野望がどうやら叶いそうだ。
・同作品については、10月30日六本木ヒルズ・タワーホールにてメイキングのプレゼンテーションが行われる(東京国際CG映像祭の企画として)。翌31日に六本木ヒルズ・ヴァージンシネマズにて特別編集版が上映される(東京国際映画祭の特別上映作品として)。チケットは共通。ヴェネツィアに行けなかった人も、ゲームショウで見られなかった人も、この機会に是非。
10月10日「苦痛の先のエクスタシー」
・コナミ社から、『メタルギアソリッド3』(12月16日発売)へのコメントを頼まれた。同ゲームについては東京ゲームショウで一部を体験したけれど、特に物語について深く知っておきたいと思い、ゲームショウやE3の会場で流していたムービーをまとめたDVDを貸してもらった。これが結構すごい。一日見とれてしまっていた。このゲーム、映画関係者にも体験してもらいたい。まず、ムービー集やストーリーボードだけでも配布してみてはいかがだろうか。
・戦場の苦悩や苦悶は、ある臨界点を超えた時、激しい快楽を喚起することがある。人間が戦いを止めないのは本能の導くところなのだ。『地獄の黙示録』等、戦争映画の傑作はその描写に成功している。
・このゲームはその狙いを継承しているが、コンピュータというフィルターによってその快楽を純粋抽出しようとしているところが新しいのだ。ヴェトナム戦争の現場は緻密でリアルな3D-CG空間として現出される。陰鬱な密林の中、揺れる草の一本に、粘り着く泥の一滴に、吸い付くヒルの一匹に、軋む筋肉の一筋にあの時代あの世界の陰鬱さが、集中している。プレイヤーはそこではいつくばり、のたうちまわる。それが気持ち良くなっていくのである。