第185回

10月14日「モバイルカンニング時代」

・ブッシュ氏の無線機カンニング疑惑。僕は多分やっていると思う。ブッシュはただの人形であり、手取り足取りコト細かくコントロールしている人達がいるってことだ。あの気のいいぼんぼんが一人で世界の命運を握っているわけではないという事実はかなり嬉しい。

・だとしたら彼個人の資質についてはあれこれ言うべきではないのかもしれない。レーガン以降、アメリカ大統領に求められている能力とは、大勢のブレインの象徴として振る舞う演技力である。映画がSFXによって進化するのと同様、それはハイテクによってサポートされうるものだ。ブッシュがフルCGだったとしても、僕はもう驚かないだろう。もちろん本人ではなく「中の人」達の資質が知りたいという意見はもっともであるが、その公開は求めればかなえられるはずである。

・さて今後、入学試験などでもモバイル端末を使用したカンニングが問題になるだろう。今もう秋葉原で売っている機材だけでシステムは完成する。無線機は服の下ではなくても近くにおいてあるバッグにでも入れておけばいい。超小型マイクは耳ではなく口の中に隠せばいい。

・しかしそれが一生続けられるカンニングであるなら、OKってことにしても良いと僕は思う。ケータイなしの社会に戻れるわけがないんだし。

10月21日「2006年に向けて」

・『新暗行御史』試写。韓日合作アニメーション。さすらいのガンマンと水戸黄門と陰陽師をまぜこぜにしたようなファンタジー。半裸の美少女剣士、肩に乗る珍獣ペット、弾丸を斬る刀、などなど、日本マンガの象徴的なアイテムをうまく活用している。

・原作はサンデーGX連載中のマンガで、作者は尹仁完(ユン・インワン)+粱慶一(ヤン・ギョンイル)。最近は韓国人のマンガ家が日本のメジャー誌でばりばり活躍し始めている。そこに日本のオタクコンテンツをさらにオタッキーなスタンスで消化し昇華した作品が生み出されている。日本のマンガ以上に日本マンガっぽい、というか。

・さて国家戦略として映画につづいてマンガ・アニメにも注力している韓国で、2006年、遂に日本製劇場アニメが解放される。人材は大量に育っているし、ハリウッドへのパイプも太い。今後『新暗行御史』のような大プロジェクトは激増しそうである。どの部分を日韓どちら側が担当し連携をどうとるか等、制作プロセスの確立には相当の経験値が必要だろうが、それもこれもつべこ言ってるよりやった者の勝ちなのである。現段階この作品では多少のぎくしゃく感が映像に出ていたが(2Dシーンと3Dシーンの組み合わせの不自然さなど)、かなり志の高いダイナミックな映像に仕上がっていて、好感が持てた。

10月24日「三位一体イベントとして」

・今年から始まった大型イベント「東京エンタテインメントマーケット2004」に。”コミック・アニメ・ゲーム&フィルムフェア”とサブタイトルが打たれているものだが、東京国際映画祭と同時タイミングに地理的に離れた幕張メッセで開催されたおかげで”フィルム”の要素は薄くなった。また各業界にはキャラショウやゲームショウ、アニメフェス等の恒例イベントがすでに満杯の状況である。ゆえにここは”マンガ・アニメ・ゲーム”を三位一体と捉える視座にこだわったイベントコンセプトが明確になっていたように思う。

・出版社、映画会社、ゲームメーカーなどがそれぞれ、自社の資産をコアにマンガ・アニメ・ゲーム3方向へと放射するメディアミックスをプレゼンしていた。出版社8社の協同展示によってマンガの世界進出を訴求する「コミックストリート」や、同じ作品のマンガ版とアニメ版を比較展示する「マンガ・アニメの世界展」など、各社合同企画も面白かった。ドラクエやポケモンやゴジラやエヴァやブラックジャックがずらずらりと並んでいる様を見ていると、日本のコンテンツって実は相当すごいとかもと思えてくる。そして世界戦略は、実はこれからなのである。

・ビジネスをプロデュースする側にとってだけでなく、現場のクリエーターにとっても、この三位一体の視座はとても重要だと思う。若い世代には例えばマンガのシナリオのつもりで小説を書いている作家がいるし、アニメの絵コンテのようなセンスでマンガを描いているマンガ家がいる。こういう人達が今とても元気なのである。

・それから会場では中国や韓国からの来場者がとても多かった。どのブースでも日本語で、とても積極的に質問を飛ばしていた。欧米もいいけどアジアのパワーにまず目を向けるべきかもしれない。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。