第197回

1月17日「10年前」

・1995年、阪神大震災の直後に現地に行った。その際、家屋やビルの壊れ方について、それぞれの裂け目や断面を、建築に詳しい人間と一緒に分析する機会があった。個人的に強く感じたのは、「昭和中期、建築物がいかに適当に作られていたか」ということだ。

・折れた柱の断面から、素材のコンクリに砂をものすごくたくさん混ぜて増量していたことがわかったりした。当時の工事担当者がそうやって資材費をちょろまかしたんでしょうね、ということだ。ちゃんと建てていたら、きっと倒れなくて済んだ建物だったのだ。あの大災害はかなりの割合で人災だったのもしれない(しかし、その責任はうやむやにされていったわけだが)。

・あれから10年、高度成長期はいかにいい加減な時代だったか、ということを僕はずっと考えている。戦後の焼け跡から立ち上がった世代を褒め称えるのはそろそろやめた方がいいんじゃないか、とも思う。

1月18日「音楽業界のようになるかも」

・ゲームソフトのインディーズ現状についていろいろと取材・勉強中。コミケだけではなく同人ショップを活用している作家が増えている。全国のショップときちんとお付き合いしていくことは個人のスタンスでも十分に可能のようだ(全国180店舗ほど押さえればおたく圏をほぼ網羅できるらしい)。その流通網の上で、10万本くらいまでは現実的なシミュレーションが成立する。10万本といえば、メジャーのゲームとしてもチャートインする数字だ。このスタイルで巨億の富を得る個人作家や少人数サークルは今後続出するだろう。

・ただ、それ以上の数字になると営業や、広告などについて別のノウハウが必要になるようだ。そこで大きなメーカーや取次の機能とのコラボレーションが行えると、望ましいのだが。

1月19日「死刑にするか、改心させるか」

・『コントロール』試写。死刑囚を新薬の人体実験に使う。それも、人間の良心を目覚めさせる薬。と、設定はあまりにも陳腐だが、丁寧に真摯に作られていてかなり引き込まれた。医学サイコものは古いアイデアでも時代が進み科学が進むほどにリアリティーが増すことがある。

・凶悪犯が本当に改心しているのか、それとも改心しているフリをしてるだけなのか、判然としないまま話が進む。そしてラストのひねりには唸らされる。果たして良心というものは実在するのか。人の心の闇の底にあるものはダイアモンドか、それとも、ゴミクズか。

・もしハイテクノロジーを使って悪人正機が果たせたとする。その人間は無罪釈放しても良いものだろうか。その場合、過去に犯した罪はどこに消えるのか。科学をもう一歩先に進める前に議論しておかなくてはならないテーマを提示している。こういう映画も見ようよ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。