第230回

9月17日「東京ゲームショウその2」

・前回に続き東京ゲームショウの会場から。ゲーム界の動向を考察してみます。

・マイクロソフトはXbox360を、ハイデフィニション化するAV環境のコントロールターミナルとして位置付けようとしている。ここでゲームを遊び、映画や音楽を楽しみ、あるいはネットコミュニケーションして下さい、というわけ。

・この値段だったらパソコンでやればいいじゃん、と考える人も多いだろう。実際、パソコン1台でネットやるだけじゃなくてDVDやテレビ放送見たり録画したり、CD音源をMP3にしたり、ゲームやったり(パソゲーだけじゃなくてエミュ走らせたり)してる人は既に多いのだ。しかしそもそもマイクロソフトはパソコンOSの進化に限界を感じたところからゲーム機に進出してきたわけである。どんなにわかりやすいOSを作っても、パソコンである以上どうしても使えないって人はいる、と。それを打破するためのインフラとして普及させようとするなら、インターフェイスには余程の一般性が必要だろう。

・だから、同社がウィンドウズ上で提唱しているインターフェイス「メディアセンター」をそのまま持ち込もうとしていることには、矛盾を感じる。ここにはパラダイムの違う操作系が実現可能なのである。それはパソコンではなくゲームの世界から持ってくるべきなのだ。

・SCEのプレイステーション3については、実機動作ではあるが映像のみのショウイングとなった。ゲームならではのインタラクションをいったん置いて映像や音響の価値のみをフィーチャーしたわけだ。

・ハリウッド大作SFX映画並みのクオリティーの映像をどのシーンでもリアルタイムに動かせる空間として作り上げている『メタルギアソリッド4』(コナミ)など観ていると、映画やテレビとは違う、新しい可能性を感じないわけにはいかない。ただこの視覚快楽がいったん商業化しそれでマーケットが組み替えられてしまうと、それはハリウッド・エンターテインメントと同様、メジャーだけの世界となる。数百人単位の体制で創り出されたものだけが主流となるしかないのだ。

・ソフトメーカーの合従連衡はそんな時代を見据えてのものである。ギャンブルではなくビジネスをやろうとしたら、大きくなっていかざるを得ないということか。合併や買収によって大企業化を完了したメーカーが、それぞれの立ち位置を確認しているのが現状だ。メジャー映画的にゲームをプロデュースしようとしているのは、コナミの他にはスクウェア・エニックス。FFをマルチ展開する戦略として「コンピレーション・オブ ・ファイナルファンタジーVII」というプロジェクトが発表されており、映画作品『アドベントチルドレン』に続いて、その世界観をPS2ゲーム空間に展開する『ダージュ・オブ・ケルベロス』がショウイングされた。どれも頭一歩抜けたクオリティーを見せつけている。コンテンツの製作プロセスを第一段階つまりコミックから内製化することにより一元化する試み『コード・エイジ コマンダーズ』も注目である。

・ほとんどの勝ち組ソフトメーカーがハード対応については全方位外交を表明しているわけだから、次世代機への移行はいずれにしても(強制的にでも)進むものと思われる。ユーザーとしてはそれほどのスペックを求めていないとしても、新ハードが出たら買わないわけにはいかないということになる。

・任天堂は相変わらず、ゲームの価値はいかに操作させるかというインタラクションの魅力にある、という考え方に立っている。映像だけの段階での展示は、彼等に言わせるとナンセンスということになるのだろう。Revolution(仮)はまるで皮肉のように、コントローラーのみが発表された。これはテレビのリモコン的な使い途よりも、画面をポインティングすることによってマウスのように使う機能が重要になりそうだ。「テレビを見る」という行為と「手を動かす」という行為を直接的に結びつける戦略は一貫している。ソニーとマイクロソフトがゲームから離れれば離れるほど、独自の哲学をかたくなに追及する任天堂は、安泰ということになる。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。